精神的に嫌なことを忘れようとする防衛機制。いつだったか、それがないと仕事がまるっきり手につかなくなるようになった。弱い、そんなこと知っていたのに、いざとなったら自分の弱さをまざまざと見せ付けられたような気がして。 「口がお上手なのね」 「きみほどすばらしい女性に出逢ったことはないよ」 「なら、思い出になってあげましょうか」 仕事、仕事だと言い聞かせてもうごまかせられないところまで来てしまったの、からだに這わせられた指でさえもう感覚がない。外界の刺激を刺激だと受け取らなくなってしまったわたしのからだをオーナーに知られたら、きっと棄てられるのだろう。 「治してやるよ、おまえの不感症」 背筋が凍る気がした。 あるとき店に訪れた金髪はナンバーワンだったわたしを指名した。へんなひと。頭のティアラもそうだけれど、まだ若くてきれいなのにこんなソープランドにくるなんて余程女と出逢いがないのだろうか。 「‥‥くす、120分で?」 「ばっかじゃねーの、」 充分すぎる。 そのテノールがとてつもなく優しくて、ああ嫌いじゃない、なんて。ぼうっとした頭はわたしの言うことをきかなくて彼が近付くのをただ見ているのみ。まるで第三者の立場でふたりを見ている感じがしてひどく心地好かった。 賢愚に酔う 同一視投射、抑圧、逃避、攻撃及び近道反応、反動形成、退行、置き換え。その種は様々である。弱いわたしは立ち向かうことができず逃げた。逃げて逃げて、逃げた先にいたのはひとり。彼は間違いなく、わたしのメシアだったのだ。 |