単純なゲーム。どちらが先に死に絶えるか、たったそれだけだなんてこれほど簡単なことはない。またひとつ、綺麗にかたちを保った肉塊が地に臥した。 「おい、そこの馬鹿」 「うるさい今忙しいの」 「だーから背後気にしろって」 彼が放った銀色はわたしを通り過ぎすぐ後ろで悲鳴。興味もないので正面から当たりにくる敵に集中する。愚か。たとえどれだけの人間が向かって来ようと、わたしに、ベルに勝てるわけがないのだ。嘲笑は断末魔に掻き消される。 「あ」 「?」 「ごめんベルのナイフ踏んだ」 「いますぐしね」 今度はわたし目掛けて飛んでくるナイフをベル対策に強化した愛銃の銃身であしらう。ロンズデーライトを大胆に使用しあの鋭利なベルのオリジナルナイフでさえ切れ込みがつく程度だ。わたしにとっての敵は最早彼ひとりなのである。 遠くで捉らえたサイレン。てきぱきと人間の抜け殻をかたす隊員を尻目に窓から屋根へ登り、愛銃を再び構える。北々東の時計台が5時を告げた。 「‥もうこんな時間?」 「しし、まだ殺し足んねー」 「ばか!わたし彼氏のベッドから抜け出してきたのに‥彼が起きる前に帰らな、きゃ」 何かが頬を掠める。じくじくと痛みだすそこに手をあてればぬめり、滑る。これは、‥やばい。 「ベ、ル」 たったいまひとりでキングサイズの寝台に寝ているであろう彼に何と言えばいいのか解らない。一緒に眠って一緒に起きて、なかったはずの傷が顔にあったなんて。わたしだったら「何してたの?」そう訊いてしまう。混乱して頭がうまく回らない。そんな問い、いつもの得意な嘘八百で乗り切ればいいだけなのに。 「オレは今すぐここでお前を撲れるし、殺れる、なのに」 無表情のベルが放った声の重さに、焦燥しきった頭は気付けなかった。途端に動いたわたしの右手は目の前の男の頬を遠慮無く狙い、閑静な街に渇いた音が響いた、気がした。 素性を隠して付き合っている彼のことは本当にすきだった。けれどばれたらきっと怖がられて逃げてしまうのだろう、所詮はその程度しか愛されていないと知っていたから尚更ばれるわけにはいかなかった。ここまで頑張ってきたのに。そう下らないプライドが邪魔をして。 「ほら、そうやってお前があいつしか見てないから」 「‥な」「今隣にいるのはオレなのに」 なに、それ、ねえ何の冗談?わらえない。ぜんぜん、笑えないよ。 なのに迫るベルを拒めなかったのは、昨日情事をした彼よりずっと前からもっと愛してたから、とでも言わせてほしい。 |