かっこいいのに自覚無しって本当に質が悪い。 「早くしないと遅れちゃうよ?」 「大丈夫、先行ってて京子」 まるで天使のように可憐で可愛い京子に後から行くと付け足して、とうとう教室にはわたしと彼だけになる。彼は机に突っ伏して規則正しい寝息をたて、わたしはたったそれだけの所作に見惚れ目が離せない。ああもうあと十秒で本鈴も鳴るというのに、 「‥‥、ふあ」 「!」 そこでようやく体が動く。が時既に遅し、今まで睡魔に身を任せていた彼と視線が重なった。再びの硬直。これだから美形は嫌いなのだ。もっと崩れた顔で生まれてきてくれたならば、今だって彼から目が離せないこともなかっただろうに。 「いかねーの」 「‥あ、う、行くよ」 「ねみ」 あくびをひとつ噛みしめ席を立つ彼の後から生物室へ移動する。明らかに違う歩幅が笑えてきて、無理矢理大股で歩いてみたり。ひとりで何してたのだろう。あほらしい。 「ねえベル」 「ん」 「なんでもない」 「は?」 そうやって立ち止まってさりげなく隣を歩んでくれる君がどうしようもなく愛しいだなんて、口にした瞬間に想いが止まらなくなるのを知っているのは世界のなかでわたしだけなのである。 |