みじかい | ナノ



 叫ぶしか、なかった。何より滑稽な手段だけれどそれ以外に何かを伝える術がなかった。文に、単語にさえもならずただひたすらに母音一字を今出来る最大限の音で発する。誰に届くことも、無かったけれど。

「あ、あ」

 がちゃがちゃと聞こえる金属音が不愉快で仕方ない。もう何年も自由に動かすことの出来なかった四肢は例えこの鎖が外れても満足にその役目さえ果たせないだろう。何という屈辱。元犯罪組織の幹部として、女として、人間として。あの頃が懐かしいだなんて、一体いつからわたしはこんなに悲観的になったのだろうか。



 何日、何月、幾年の時が経ったか。時間を知る手立てもなく暗闇一点を見つめる。正確には何も網膜に映すことなく規則的に瞬きを繰り返すのみ。ただの人形と化した。


「随分滑稽な姿じゃあありませんか」


 声が、した。わたしの嫌いで嫌いで仕方のなかったテノール。急速な覚醒。視界に赤と青が映る。


「、ろ」


 声の発し方を忘れた口は呂律が回らず辛うじて最後の一文字を紡いだのみ。ああ、やっと、やっと解放されたのか。記憶に残る彼とは甚だ変わっているが左右で色の違う瞳と藍色の髪は同じまま。涙が止まらなかった。


「こんなところで何をしているのです?あなたらしくもない、僕なら大丈夫だとあれほど伝えたにも関わらず復讐者に捕まってこの様だ」

「も、とは と‥いえ、ば」

「仕方ないでしょう」


 あの頃は子供だったのだから

 すっかり大人びたあいつはすっかり変わったわたしのからだに巻き付く鎖をいとも簡単に断ち切った。



(本当は君が助けに来てくれたときどうしようもなく嬉しかったなどと言ってやるものですか)



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