頭痛が 止まなかった 「ベ、ル」 手をのばす。触れた肌が冷たくて冷たすぎて信じられなかった。とめどなく溢れる赤い液体が指先を染める。もう見慣れているはずなのにこんなにも震えが止まらないのはどうしてなのだろう。 幾度名前を紡いでも反応しない彼の胸を叩く。両手を握りしめて咽び泣くわたしは端からみたらどれだけ滑稽なことか。ねえどうして動かないの、ねえどうして目を開けないの、ねえどうして いつもみたいに笑ってくれないのですか ヴァリアーの集中治療室へ運ばれた彼を追わなかった。意味もない包帯を巻かれて意味もない麻酔をうたれて意味もなくからだに針を刺される彼を見る気にはなれなかったからだ。ただ茫然と血液の遺る部屋に佇んで彼がいた場所を眺めるばかり。迎えに来てくれたスクアーロ作戦隊長には悪いことをしたと思う。ウーノという重要な立場のわたしが食べ物は喉を通らず引きこもり使い物にならなくなってしまったのだから。幹部とウーノを一度に失ったのは相当こたえたことだろう。 予想外だった。ここまであなたに依存していたとは思わなかったのです。あのときあなたが人間とは思えないほど冷たかったことに感じたことのないほどの恐怖を覚えた。自分が死に絶えるより世界が滅するより怖かった。たとえ夢だったとしてもわたしはきっと今と同じ状態になると思う。否そうに違いない。 それから毎日作戦隊長やルッスーリア隊長がわたしのために膳を運んでくださった。折角のご厚意に応えようと口に運ぶけれど結局胃に達することなくトイレの排水と共に消える。数日を過ぎたころ胃のなかには何もないのに吐き気だけがわたしを襲った。そしてあなたが死した、と聞かされた。もう膳を口にしようとさえ思わなくなった。 そんなわたしに任務が下されたのは昨日のこと。からだを動かすのも部屋から出るのもやっとというわたしにどうしてボスが任務を言い渡したのか真意は全く分からなかった。こいつには無理だと抗議してくださった作戦隊長にも聞く耳を貸さずただひとこと、行けと仰った。 任務地だと連れてこられたのは空き家だった。周りに民家ひとつない孤立した住居。任務内容をきかされていないわたしは覚束ない足取りで二階へ上がる。武器を手にした腕に大してかからない力をいれて唯一埃のついていないドアノブを回した。 「な」 遺、品。彼の身につけていたアクセサリーやらブーツやらが丁寧に並べられ部屋を飾る。真っ白の頭で状況を理解しようと試みたけれど所詮無理なことでわけもわからず座り込んだ。正確にいえば立っていられなかった。 かみさま、なぜ彼を連れていってしまったのですか。なぜ彼だったのですか。なぜわたしを独りにするのですか。声にだした疑問は背後からの声によって掻き消された。 「うっせ、なんでおまえが死にかけてんの」 う そ、嘘、あなたの声を聞き間違えるなんて、まさか、そんな どうして 「ベ ル」 「やつれたとかそういうレベル超してるよなおまえ」 「ベル」 「なに拒食症?ありえねーから抱き心地悪いとか、」 「ベルベルベルベル!」 「、ばっかやろ」 飛びついた反動で倒れ込む。怒りながらも優しく頭を撫でる仕草に涙があふれた。たりないよ、あなたがいないと聞かされてどれだけ苦しかったかあなたには分からないでしょう。でももうどうでもいい、ビンタ一回で赦してあげる。ちゃんと温かい胸に顔をうずめて鼓動の止まないあなたのからだをいっぱいいっぱいだきしめた。 |