みじかい | ナノ



 ざあざあと雨が降っている気がする。ほんとうはわからない。体外の音が聞こえないのだから降っていようがいまいが確かめ様など無い。
 血液がからだ中を巡るのがこんなに鬱陶しいことなどあっただろうか。熱い。どこがって全身が。唯一聞こえるのはわたし自身が肺を無理矢理膨らませてるような耳障りなものと耳鳴りただふたつ。耳鳴りは守護霊が傍らにいる証とか誰かが言っていた気がするけれど嘘に違いない、なぜならわたしはいま死の寸前なのだから!もってあと数分だ。

 そういえばトイレの電気消したっけ。折角節約生活してたのになあ。こういうときに限って下らないことばかり頭に浮かぶのはわたしの性格上仕様の無いことなのだろう。心のなかで自嘲した。もう唇さえ満足に動かせないとは。


 目前でわたしの顔を覗くプリンスザリッパーがわらった。重力に従い下がる前髪は普段隠していた双眸を露にした。なんだ、通り名の割に情けないじゃないか。彼の瞳から零れた水滴はわたしのそれに点眼された。ばかだなあ、ないてるの?

 こつんと合った額の熱を感じないことがこんなにもどかしいなんて。心のなかって額から読まれないかなあ。またくだらねーこと考えてんじゃねーよってきみは笑ってくれますか


「さようなら泣き虫さん」


 視界がフェードアウトするなか動かない筋肉で紡いだ声は重なった彼の唇に飲み込まれて跡形もなく消え去った。




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