210回。何がってわたしが彼に告げた回数。そのうちの一回でさえ聞き入れてもらえたことはない。そして今日もまた彼に逢うために屋上へ足を走らせる。 「すきです」 「耳にタコ」 近くのコンビニで買ってきたのかしなやかな手に握られていたミルク味の棒アイス。それを口に運ぶ動作さえ絵になるのだから本当に困る。つい彼に見とれてしまっていた自分の頬を叩いて彼の横にしゃがみこむ。案の定からだを離されてしまった。いつものことながらショック!コンクリートの地面に背中を投げ出して転がりながら再び彼の横へ移動。今度は逃げなかった。 「それちょーだい」 「やだねオレ王子だもん」 「王子ならアイスのひとつくらい寄越せよ」 「うっわお前ほんとにオレのこと好きなの」 彼の語尾に重なるように鳴ったけたたましい予鈴。もしかしたら本鈴かもしれない。どうでもいい。特にすることもなく空を泳ぐ水蒸気の塊を目で追うがすぐに飽きて瞑する。いつもなら鬱陶しい強い風すら彼の隣なら心地好かった。 ねえ、と問い掛けようとして開きかけた唇は音を発することなく飲み込まざるを得なかった。口にじわりと広がるミルク味。反射的に開けた視界の全面に彼。唇に重なる彼のそれ。端でちらつく金色。再び青と白の空が目に映っても時が止まったかのようにからだは言うことを聞かない。思考も丸っきり停止。何事も無かった様に棒アイスを食す彼。なになになにがおきた今 「ベル」 「なに」 「すき」 「耳にタコ」 数分前となんらかわらないやりとりがどうしようもなく嬉しくて涙したのはわたしだけの秘密だ。 |