みじかい | ナノ



 温度も感情もない瞳を嫌う彼は自身を隠すために随分幼い頃前髪を利用した。きらきらと光沢のある金糸はそれ自体が元々目立つため効果は絶大。いつしか彼は顔の半分が前髪で覆われているのが常識になった。これは彼の片割れにも当て嵌まる。と言っても今では彼の瞳を知るのは世界にわたししかいなくなったけれど。まあそのせいでわたしは彼に毎日殺されかけるのだが。


 からりとグラスの中の氷が崩れる。壁に追い詰められたわたしの顔の横には彼の腕。もう片方の手が頭の後ろに滑り込み唇に彼のそれが啄むよう重ねられる。そのひどく官能的で手慣れた動作に虜にならない女など果たしているのだろうか。幾度も角度を変えられ毎回酸欠寸前でからだを離す。それと同時に首に突き付けられた彼の愛用するデザインナイフ。くいこんだ尖端との接点から下へ伝う緋色。大して気にもせず彼の前髪をたくしあげ隠されたふたつのそれがわたしの視界に映る前に再び唇を奪われる。


「しねよ」

「残念」


 くすりと挑発するように笑んで壁と彼の間から抜け出す。そうして彼の生理的殺人欲求を引き出せるだけ引き出し放るのは世界にひとり、彼の双眸を知りあろうことか彼を愛して彼に愛されてしまったわたしの慎ましやかな抵抗


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