ただどうしようもなく心酔していたのです 初めてお目にかかったのは流魂街でした。美しい銀の髪に凛々しい顔つき、堂々とした態度その総てに一目惚れをしてしまいました。それから間もなくあのお方が霊術院入りしたと耳にしてわたしはもう一目みたさに後を追い霊術院に入りました。 けれど実際白打や鬼道はとてつもなく難しくてどんどん手の届かなくなる彼を諦めようと思ったのです。わたしには手の届かない方なのだと。幼なじみだという可愛らしい女性といるところも見てしまいとうとう夜中に寮を抜け出してしまった。そしてそのとき澄んだ池の前でお逢いしたのが さまだったのです。 こんなわたしに さまは優しく諭してくださいました。ゆっくりでいいわたしならきっと立派な死神になれると。今戻れば何事もなかったように明日また授業を受けれると。その日からあのお方を慕う傍らで さまのような素晴らしい死神を目指しました。 六年という課程を終業してすぐ十番隊に配属をされました。任された書類を終わらせその日の班の書類の提出当番だったわたしは幾重にも重ねられた紙を抱え上位席官の執務室へ向かいました。そこで再会したのはあの日一目惚れをしてしまった彼でした。はじめは幻の類だと思い硬直、翡翠の双眸に射抜かれ今度は意識を手放してしまいました。 その僅か幾十年後。あのお方は隊長に就任。天才という言葉はきっと彼のことを指すためにあったのだと思います。なんとかお近づきになりたいと日々書類整理に励みました。しかしたかが書類整理をこなすだけで位を上げられるわけがなかったのです。 避けていた虚退治の任務を下されました。その日は一日中頭が痛かった。割れるような頭痛ごときで皆さんの足を引っ張りたくなどなくそのまま任務へ向かった。いざ虚を目の前にすると頭痛が激しくなって浅打を握る手に力が入らなかった。否、本当は虚を斬るのが怖くて怖くてたまらなくて頭痛のせいにしていただけ。たしかに頭痛は酷かったけれど恐怖に較べたら気にするほどでもなかった。そしてとうとうその日、元は同じ魂魄だった虚を斬りころしてしまったのです。 それから毎日罪悪感との戦いでした。隊長に近付きたいがためにわたしが死なせてしまう虚たちが、苦しくて仕方なくて魂魄を襲ってしまうだけの虚たちが理不尽に思えて仕方なかった。手に掛けるたび伝わる肉を斬る感触がだいきらいだった。 「無理すんじゃねーよ」 そんな中声をかけてくださったのがあなたでした、隊長。隊長がくれたそのたったひとことで救われた気がしたのです。いえ、わたしを救ったのです。わたしに気付いてくれたことが、わたしを心配してくださったことが何より嬉しくて涙することも多々ありました。虚を斬ることがどんなに苦しくても隊長が褒めてくださるなら頑張れる気がしたのです。 が、 朽木女史の死刑及び旅禍騒動の日、わたしの世界は壊れた。隊長が死の寸前、さらに憧れの さまの裏切り。視界は真っ暗になった。それからはただ一心に塞ぎこんだ。 そしてしばらくして松本副隊長が気を利かせて行かせてくださった現世駐在任務でわたしは さまに逢ってしまった。 さまに憧れていたことを知っていた さまが、わたしに、逢いに来てしまった。 「もう虚斬るのいややろ」 どうしてですか市丸さま。あなたに抗えないのを知っていてあなたはわたしを虚圏へ誘った。尸魂界に戻って自害しようと試みたのは隊長を裏切りたくなかったわたしにできる唯一の抵抗だったから。運悪く見つかり閉じ込められた牢のなか本当は安堵していたのです。牢のなかならば例え市丸さまでももう追って来れないだろうと。それが甘かった。 「明日迎えに行くわ」 痛む脳に響いた京都弁。これほど戦慄する声色など他の誰が出せただろう。甦った恐怖はわたしを追い詰めるのみ。こんなに怖いのなら、隊長を裏切ってしまうのならいっそ、 ころして 翌日ことばどおりわたしは人形となった。目の前に突如現れた闇から出て来た市丸さまはわたしの斬魄刀でわたしの腕に深い傷を切り込んだ。絶え間無い流血はそのままに、傷は虚圏でてあてされた。いちまるさまははりつけたえみでただこういった。 あの若い隊長さんの良い餌になるわ わたしがあなたに遺したのは手柄でも笑顔でもなくてただの足枷、ただ云わせてもらえるならたとえ足手まといにしかならなくてもわたしはあなたをあいしていました |