みじかい | ナノ



 既に一度死ぬ苦痛を嫌というほど味わった女はしにたいと泣き叫んだ


 何より強く弱い彼女はその優しさゆえに虚を斬るたびに涙する。もう何千何万何億と斬った数が知れないが彼女が涙しなかったことはただの一度だってなかった。たとえその虚が家族を殺した仇だったとしても、だ。隊舎に帰ってくれば赤くなった目を擦り俺に笑顔を見せて自室に篭る。次の日には昨日の面影なんざ片鱗も見せず書類整理に勤しむのだ。

 そんな生活が数十年続いたある日現世駐在任務から帰ってきた彼女はついに自害を謀った。真面目な彼女が出勤しないことに不審を抱いた三席が血に塗れた彼女を彼女の自室で発見したのだ。傍らに転がる斬魄刀は鈍く光を放っていた。


 彼女の死神になったきっかけの男は数か月前尸魂界を裏切り虚圏へ去った。もともとずたずただった彼女はその事件のせいでついに壊れてしまった。ただひたすらに目指していた唯一の心の支えが反乱を起こし消えたのだ、無理もない。そもそも彼女は死神などという酷な役職に向いていなかった。


「ころして」


 斬魄刀を取り上げた牢の中でそう彼女が呟いた翌日、彼女は一番隊に保管していた斬魄刀ごと消え失せた。鉄格子は鋭利ななにかで斬り取られ壁は粉々に砕かれご丁寧に牢の床には彼女のものだと思われる夥しい血痕。手引きした者がいるのは誰が見ても瞭然。そしてかつての師を追って虚圏に行ってしまったのも誰が見ても瞭然だった。


 十刃が現世に襲撃に来たとき元隊長だったあいつに寄り添うように彼女がいた。笑っていた。しあわせそうに。結局彼女を絶望に追いやるのもその絶望から救うのもあの男ただひとりだった。

 俺が彼女に差し出せるのは手なんかじゃなくて刀の切っ先のみ、そんな慣れた一連さえできねえんじゃ俺はお前をあいしてたのかもしれねえな


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