みじかい | ナノ



 ほらさあなんとかっていう童話にあるじゃん、人間になった人魚が愛した王子を殺せず消滅したはなし。振り向いてもくれない他人のために自分を犠牲にするなんてナンセンス。オレだったらありえないね、まあオレの場合その王子もその恋人の女もそんな条件だしたやつも皆殺しだけど。


「うっわ世界中の夢見る乙女を敵にまわしたね今」

「お前いたいね」

「!…うう」


 たとえ片想いでもすきなひとは殺せないんだよ、いつだったか言ったよな。ばっかじゃねーの、それがお前の弱点なんだって。黒の隊服すら染める緋色は立ち尽くすオレのブーツにたどり着いて跡を残す。斃れたままぴくりとも動かないそいつにプレゼントした嘲笑に見返りはない。

 こいつは武器だって常に数多所持していたしそれを扱う腕だって決して悪くなかった。なのに敵にかすり傷ひとつ負わせることもできず死した理由はこいつがその敵を愛していたからだ。愛した男に殺された。何の抵抗もせず。称賛したいね、かの暗殺舞台ヴァリアーの名が聞いて呆れるぜ。血色の無くなった頬に磨きあげたナイフを掠めても流血することはなくただ肉が裂けるのみ。

 なあオレには分かんねーよ、何でお前笑ったまま死んでるわけ。何でお前殺されたのに笑ってるわけ。何で何で何でオレに何も言わず死んでるわけ。


「死ねよ」


 どんなに愛しい奴でも殺せるしどんなに愛してくれた奴でも躊躇なく殺せるけれどどうせ死ぬなら愛しい奴に殺されたいと反論したオレに理解できないと言ったお前はただの肉と骨の塊となった、

 オレがあんなに愛した女はオレを殺すことなく死んだのだ


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -