みじかい | ナノ



「っんのアホええかげんにせえ!」


 絡めていない方の腕を怒声と共に後ろから引かれ必然的に振り向く。いつもの余裕有り余った笑顔の片鱗なんてこれっぽっちもみせずに肩を上下させるそいつ。驚いて腕が解ければ絡んでいた名も知らない男はじゃあまたねと颯爽と人込みに消えた。


「なんなの」


 邪魔しないでとあからさまな不機嫌を表に出して舌打ちをひとつ。掴まれたままの腕を無理矢理ふりほどいて他へ向かおうとするわたしを今度は肩を掴んで引き止める彼。周りの視線が痛いけれど大して気にならなかった。

 二百余年前からの知り合い。護廷十三隊の席官として初めて逢った彼は初対面にも関わらず失礼なことをぺらぺらと躊躇いもせず言ってのけた。それからというもの顔を合わせる度にお互い嫌味を吐き続け犬猿の仲。けれどそんな関係が何より心地良かった。
 彼が隊長に就任して数年後、わたしたちはある陰謀をきっかけに尸魂界から追放された。正確に言えば現世に身を隠した。そしてそれ以来わたしの性格はまるっきり変わってしまった。握菱や喜助には感謝している。ただもう二度と尸魂界に行けないという事実が受け入れられなくて反撥しているだけなのだ。実際彼と逢ったのも数か月振り。長くて綺麗だった髪も今では肩で切り揃えられている。


「どこ行くんや」

「家に帰る」

「名前も知らんにーちゃんのか?」

「…うるさいな関係ないでしょう!」


 自分でも驚いた。わたしこんな大声出せるんだ。ああやっぱりだめだこいつと居ると感情の制御が不可能。なにこれ涙が止まらないどうしよう、というかなんで泣いてんだわたし。人前じゃ絶対涙しないって決めていたのに


「ほら帰るでアホ女」


 ぐしゃぐしゃと乱暴に撫でられたせいで折角セットした頭はきっと可哀相なことになっていただろうけれどこれ以上ないくらい優しい手に何も言うことは出来ずきつく瞼を下ろして込み上げる何かを堪えるのに必死だった。


 ほんとうは迎えにきてくれるの待ってたなんて言ったらきみは笑ってくれますか



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