みじかい | ナノ



 世界中の誰より愛してる自信があったの。そして世界中の誰より愛されてた自信もあった。だからかな、だからいまこんなにもこころが空っぽなのかな。ねえさみしいよ、いますぐきみの優しい腕に抱き締められたい。行き場のない感情は水になって目から落ちた。


 食事用の食材がなくなり通販も使えない(正確に言えば使い方が解らない)、いつも買い出しに行ってくれていた彼の部下たちもいない。市場へ行くには出るなと言われたアジトから離れるしか方法などなかった。そんなことするんじゃなかった、スクアーロさんとかルッスーリアさんとかが帰ってくるのをおとなしく待っているべきだったのだ。そうしたらきっとおんなのこと仲良く手を繋いで歩くきみの姿なんて見なくてすんだのに、なんて言い訳。本当は知ってたの、わかってた。きみがわたし以外の女のひとといる時間の方が長いこと。


「待てって!」

「っ」

「なんで逃げんだよ!」

「きみが、」

 いちばんわかってるでしょう?

 もう疲れたよ。毎日違う香水のにおいがするきみに知らない振りをしてわらって、あいしてるって囁いて嫉妬を閉じ込めて鍵をかけて。ねえばかでしょう、そこまでしてもきみのそばに居たかった。でももう限界、わたしのこころの中にしまっておけるほど軽い嫉妬じゃなくなっちゃった。わかっていたつもりだったのに実際見てしまったら現実を叩き付けられたような気がしてそれが溢れて止まらなくなっちゃって。

 掴まれた腕を引かれ強制的に足を止められる。じたばたと抵抗を続けるわたしをおさえつけて無理矢理重ねられた唇。ねえなんでこんなことするの。いとしいよあいしてるあいしてるあいしてる。だからいちばんじゃないとやなんだよ、オンリーじゃないとやなんだよ。ばちんと大きな音を響かせてはねた頬を一瞥さえせず、ただひとこと告げた。


「あいしてました」


 右手が空を掴む。何故あれから何年も経った今になってあんな過去を夢にみたのだろう。オレが間違ってたんだ、おまえが大事すぎていとしすぎてどう触れたらいいのかわからなくて、他の好きでもない居心地も悪い扱いやすい色んな女と一緒にいたのは事実だったのだから。


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -