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「わたしは死んでもお星さまになんてなりたくないな」

「なに突然」

「地球に光が届くのが何十光年も後だなんてありえない、折原くんを見守りたくても到底無理じゃない?」


 面喰らった。思わず振り返ってしまい、白いベッドの上で俺に背中を向ける彼女を凝視する。


「ばかじゃないの」

「なん、」

「心配しなくてもきみは星なんていうものにはなれないんだから考えるだけ無駄だよ」

「‥ねえ、折原くんって前に比べたら毒舌になった気がするんだけど、」

「今まで猫かぶってたからね」


 そっか、と微笑まれる。最近彼女は良く笑うが、それに比例して症状が増えていた。なぜだろうか。なぜ、この女は弱音を吐かないのだろうか。


「ねえ、折原くん」

「?」

「わたし、しあわせだよ」



 俺には泣いてるようにしか見えないんだけれど。










 雨が降っていたある日、彼女は心停止でICUに運ばれた。ICUには昨日も行ったばかりだった。

 タイムリミットはもう、すぐそこなのかもしれない。


「あら。‥名前ちゃんの彼氏?」

「え?‥ああ、はい」

「いつのまに‥名前ちゃんもすみに置けないわ、‥‥あなた、半月くらい前に名前ちゃんの病室にいた子じゃない?」

「‥‥彼女、移植しないんですか?心臓」

「そうね、何度も提案した。でも毎回返答は拒否ひとつなの。この間なんてあの子、何て言ったと思う?『たとえ脳死でも生きているひとを殺して内臓を奪ってまでわたしは生きたくない』ですって。‥やりきれないわ」


 去る医師を視線だけで追う。あの女はとことん自虐癖があるらしい。根っからの他者基準的価値観。面白いなあ、最高にくだらなくて!


「‥、う」

「やあ、お目覚めかな?気分はどう?」

「‥‥さ、いあく」

「だろうね」

「せんせ、は?」

「呼ぶ?」

「‥‥‥いい、せっかくの、ふたりきり、だから」


 あとすこししかないんだから少しくらいのわがまま許してくれるよね。そう言った彼女の声は窒素に融けた。


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