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「おはようございます、折原くん」


 素っ頓狂な顔をする折原くんを、わたしは初めて見た気がする。


「抜け出して来ちゃいました、折原くんに逢いたくて。今日はいい天気ですね、登校日和です。ところで折原くんは屋上で何してらっしゃったんですか?サボりは良くないですよ。校内中探すの大変だったんですからね」

「もう学校で会うことはないと思ってたんだけれど」

「言ったじゃないですか、折原くんに逢いに来たって。どうせサボるなら、わたしとデートしてくれませんか?」

「‥は?」










「どっちが似合いますか?やっぱこっちですかね」


 黒と白のワンピースを両手にして楽しそうに笑う彼女を遠く感じた。聞くだけ聞いておいて結局白に決めたらしく黒のワンピースは元の位置へと戻される。


「服なんて買ってどうするの?きみはもう出かけることなんてないだろ」

「折原くんもまだまだですねえ。ふつう好きなひととお買い物するのが女の子の夢なんですよ」

「‥‥‥‥‥きみは俺を好きだと言うのかなあ」

「いけませんか?」

「きみの普通は普通じゃないよ」

「折原くん、わたしを彼女にどうです?」

「もうすぐ死ぬのに彼氏が欲しいのかな」

「もうすぐ死ぬ人間は彼女になっちゃだめですか」

「‥‥」

「折原くんに『彼女』がたくさんいることは知ってます。何番目だっていいんです。一方通行でも折原くんのそばにいたいんです」


 あ、折原くん、これも可愛くないですか?

 今日気付いたことがある。‥彼女は、ほんとう、頭が弱いらしい。神経を逆撫でるどんな嫌味を言っても嫌悪する顔を見せることは無く、むしろ笑って話題を変える。最初こそ冴えている人間だと思ったけれど、実は嫌味を本気にしておらず冗談の類だと勝手に理解しているようだった。それが素のようで拍子抜けさえした。


「いいよ、彼女にしてあげても」

「うわあ、実際聞いてみるとなんて適当な言葉なんだろう」

「なるのならないの、どっちなわけ」

「なる。なりたい。折原くん、だいすき」

「‥‥はいはい」


 俺もとことん、頭が弱いらしい。


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