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 あの日、彼女が宣告されたたった2か月の余命が始まりだった。


 本来ならあったはずの「普通の女子高生として生きる権利」をある日いきなり剥ぎ取られて、その代わりに与えられたのは堪え難い闘病生活。心臓腫瘍は若さゆえに進行がはやく、刻々と悪化する症状に我慢しきれず泣いていたのは記憶に新しい。


 あの日彼女にしてと願った女は、いま。




「臨也。‥こんなところにいたのか」

「何か用なら電話でもしてくれればよかったのに」

「‥別に、用なんてものじゃなかったからね」


 とある建物の屋上でこの街を見渡す。どこを見てもむせ返るほどの人の数に吐き気さえする。手を突っ込んだポケットの中で震えることのない携帯を握りしめた。


「僕はさあ、今でも信じられないよ」

「なんだよ新羅、今日は随分饒舌じゃないか」

「まさか君が、」







「折原くんどこ行ってたの?また屋上?ほんとう高いところ好きだね」

「からだは?大丈夫なわけ」

「ばかだな、大丈夫だよ。ほら見て、」


 はやくうまれてくるといいね、わたしたちのあかちゃん。



 まさか君が、父親になるなんてね。





110216
ありがとうございました


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