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 自分が最低だということは理解してる。わたしから平和島くんに無理矢理近づいたにも関わらず、それを自ら投げ遣った。馬鹿だ。あれだけ極端にふたりを避けておきながら寂しいだなんて烏滸がましい。自業自得。

 出来ることなら戻りたいだなんて、それこそ今更で、むしがいい話。



 金曜日。先生に呼び出しを受けひとり残った放課後、かばんを取りに教室に向かう。晩秋の午後5時56分、文化部はとっくに活動を終わらせ残っているのは体育館に極少数の運動部のみ。つまり、校内に人はいない。

 はずだった。



「待ってたよ」


 暗い教室に廊下の蛍光灯の光で辛うじて分かる人影。真っ黒なシルエット。カンカンカン、脳が警鐘を鳴らした。


「‥あ、の」


 どなたですか。問うた直後、人影はわたしに近付く。無意識に後退りしていた。
 暗闇に在る黒髪緋眸。それはあの日屋上で出会った男以外の誰でもない。


「折、原臨也さん」

「この前振りだね」

「わたしに、なにかようですか」

「あっはは、そんな怖がらないでよ」


 とって食おうってわけじゃないんだからさ。そう続けた彼の笑みに感じた言い知れない恐怖。いやだいやだいやだいやだ!全身から汗がふきだす感覚に身震いした。


「神っていると思う?」

「‥‥は、」


 思わず双眸を見つめてしまった。いきなり何を言い出すのか。神?信仰対象の神?


「あの‥話が読めないのですが、」

「思ったことをそのまま言えばいいんだよ」

「‥わたし、は」










 明かり一つない屋上。闇の中にひとり街を見下ろす男。午後9時、もう運動部も活動を終え、教師でさえ職務をこなし帰宅した。緋色に燃える双眸はネオンを映す。



「神がいるとかいないとか、そんなことはどうでもいいんです。人間が努力や苦痛から逃れたいがために創られた偶像の存在の有無なんて討論するだけで無駄でしょう、この地球の雲の上になんて空しか広がってないのですから。それにもし神という存在があったとして、それが善だと誰が決めたの?どこかの誰かは『神は乗り越えられる者にしか試練を与えない』と言うけれど、神に悪意がないと何故言えるの?その試練を乗り越えられなくて廃人になった人間がどれだけいると思ってるの?何故地球上の総ての生物を平等にしないの?神だなんて存在したところで万物を不幸にしかしないの、‥そう、もし、もし本当にそんな存在があるのなら。わたしが、神を殺します」



「くく‥‥あっはははは!面白い!実に面白いよ苗字名前!想像以上だ、君は俺の期待に応えてくれた!期待を超える範疇で確かに俺の期待に応えてくれた!」


 温厚そうな彼女があそこまで雑言罵倒するなんて誰が考えるだろう?あそこまで神を嫌悪しているなんて誰が考えるだろう!最高だよ、さすが化物と変態に関わろうとして且つ化物に恋した人間だ!


「楽しみだなあ楽しみだなあ楽しみだなあ」


 彼女は俺の手から抜け出してくれるのだろうか!


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