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「あ」


 移動教室の途中、後ろから聞こえたその声に反射的に振り向く。隣を歩いていた友人は後ろにいた人物を認識するとさっさと行ってしまった。


「こ、こんにちは、平和島くん」

「手前、‥あー、悪かった」

「え?」

「昨日、廊下で当てちまっただろ」

「‥‥‥あ、」

「臨也が避けやがって‥あいつそれを狙ってたのか?そうかそうに違いねえ、関係ねえ奴巻き込みやがってこれじゃあ殺されても文句は言えねえよな、よし殺す殺す殺す殺す」


 不穏なことをつらつらと流暢に言ってのける彼はまるで別次元にいるようにわたしの存在を忘れていたと思う。もう一度彼の名前を呼ぶと、はっとして顔をあげた。目が、合った。


「わたしは何ともないから、気にしないで、くだ、さい」

「‥‥‥」

「‥‥」

「‥‥‥本当、悪い」

「だからいいですって、‥あ、えとじゃあ、ひとつだけお願い聞いてください」

「あ‥おう、なんだ」

「お、‥お昼。一緒に食べてもいいですか」


 唖然として固まった平和島くんの顔を見て自分の言った言葉を酷く後悔した。






「あれ?」

 昼休み。屋上に現れた2人組に新羅は首を傾げた。いつも静雄しか来ない(ただし極たまに1名引っかき回しに来る男がいる)この屋上に、彼が自分以外の人間と来るなど予想もしていなかったのだから。


「お邪魔します、‥岸谷、くん」

「君たしか‥苗字さん、だよね」

「あ、その節は随分とお世話になりまして‥」

「まあ座って座って。‥僕の家じゃないけど」


 岸谷くんはとても優しいひとだった。話したことなど一度もなかったのに保健室でわたしが目覚めるまで待っていてくれたのもそうだし、今だってわたしに分からない話をしないようにしてくれてる。あんなに怖いと思っていた平和島くんは、普段はとても穏やかで気性の荒いひととは正反対。ふたりの話を聞くたびに、安らぐような気がした。

 ああ、今日も空が青い。


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