お薬の時間です | ナノ


▼ こんな所で‐04

──触って欲しい。

でもこれ以上声を我慢させられる自信がない。

周りには絶対に気付かれたくない。……でも触って欲しい。

そんな堂々巡りを続けて、どうしたらいいのかわからず小さく身を縮こまらせたまま震える光の頭をもう片方の手でなだめるように撫でる楓。

そして髪を優しく掻き上げて耳を露出させると、楓はその真っ赤になっている耳に唇を寄せた。

「──いッ……!!」

突然耳の先に走った鋭い痛み。

ドロドロに湯だっていた頭の中に真っ白な雷が落ちるようなその衝撃に光は思わず悲鳴を漏らして身体を跳ね上がらせた。

「脚、開いて下さい」

光の耳に歯を立てた楓はまるで悪びれる様子もなくニコリと笑って、1回目よりも心なしか強いトーンでそう言い放つ。

「……っ」

噛まれた耳が熱く熱く、ジンジンと痺れる。

その痛みと痺れによって脳内はめちゃくちゃに掻き乱されて、まともな判断などできなくなっていた。

楓の言葉に促されるまま光は恐る恐る脚の緊張を解いていく。

「はい。よくできました」

自由になった手が再び布越しに裂け目を撫で上げる。

そこはますます熱を帯び、楓の指に伝わるほどに淫らな愛液を染み渡らせていた。

「今度は閉じないで下さいね」

そう囁きながら楓はもったいぶるように強弱をつけて光の最も敏感な箇所を探り当てていく。

「閉じたらまた耳噛みますから」

「……っ……!」

ただでさえ下腹部を突き抜けていく快感に耐えるので精一杯なのに、これ以上の刺激を受けたら車内中にあられもない声を響かせてしまう。

光は何度も小刻みに首を横に振って、限界まで追い詰められているということを楓に訴える。

「〜〜ッ!!」

しかし、そんな光の身体にとどめをさすかのように、楓の指先が裂け目の奥で身を潜めていた淫核を捕えた。

「……ここ?」

「っ、……!! ッふ、ぅ、ぅぅ……っ!」

ビクンビクンと脈打ちが下半身全体に響くほどに腫れたそこを容赦なく突かれ、光は堪らず哀願に満ちた眼を楓に向けた。

「だ、めっ……! 声、でちゃうっ……!」

このまま快感の高波に飛び込んで呑まれてしまいたい。

……けれどここはバスの中。

絶対に理性を手放すことのできないこの状況が苦しいほどもどかしく、光は今にも泣きだしそうな弱々しい声を上げて何度も首を横に振る。

……と、その時

ガタンッとバスが揺れ、その反動で楓の指が深く秘裂に食い込み陰核を抉った。

「っあ!! ──っ!!」

突然の衝撃に極限まで追い詰められていた身体がたちまち真っ白に弾けて激しい法悦を湧き起こす。

そうなることを予測していたかのように、楓は体を大きく跳ね上がらせた光を素早く己の胸へと抱き寄せた。


「ふ……っぁ、あッ……!! っふ、うぅ……!」

ぎゅうぅっ、と楓の強い腕の力を感じながら光は何度も全身をビクつかせてくぐもった声を漏らす。

楓の体が防音の役割をしているおかげで辺りにその声が響き渡ることはなかった。

どの客も最後尾でこんな淫らな事が行われていることに気づいている様子は無く、各々退屈そうに目的地までの時間を潰している。

「……これなら遠慮なくいじっても大丈夫そうですね」

「っん……! ふっ、う! ううぅ……っ!」

絶頂の波が過ぎ去りほっと息をついたのも束の間、楓の指に再び媚肉の奥で震える陰核を突かれ、光は瞬く間に引き上げられていく快感に身をよじらせて楓の服をギリッと強く握りしめた。

充血しきったそこを集中的に擦られ、沸騰する熱情が全身から体の中枢までもを一気に再燃させていく。

「ふっ……!!う、んんッん……!!」

あまりにも早い2度目の絶頂が訪れ、光は口元に触れていた楓の服をとっさに噛んで声を押し殺した。

激しく痺れる感覚に腰元が忙しなく震え上がってしまう。

それをなだめるように楓の手が光の頭を深く包み込む。

その手の柔らかさと、ふと鼻腔をくすぐる石鹸と薬っぽさの入り混じった楓の香りがたまらなく心地よかった。


理性の崩壊しかけた身体は、更なる高まりを望んで疼き始める。

けれどバスの中で今以上の刺激を求めるわけにはいかない。

またしてもどうしようもないもどかしさに心を締め付けられながらも、光は楓の温もりに包まれながら与えられる快楽に溺れ続けた。


──ゴトンッ

「んんっ……!ふ、ぁッあ……!!」

わざとしか思えないくらい絶妙なタイミングで襲い来るバスの揺れに、もはや何度目かもわからない絶頂を迎えたそのとき、ふと楓が光を抱きとめていた腕の力を緩めて顔を上げた。

「次で降りますよ」

ぼんやりとした頭に楓の声がこだまする。

……じゃあ……、もうこれで終わり?

誰にも気づかれずに済んだ安堵感や、未だに尽きることのない情欲、楓の腕が離れていく心悲しさ。

様々な感情を織り交ぜて光は深くため息を吐いた。

「ボタン押しますか?」

自力で身を起こすことすらできないくらい光がフラフラになっているとわかっていながら、楓はイタズラに光にそう尋ねる。

本来ならば「おちょくるな」と殴りかかっているところだが、腕を振りかざす気力もない光は仕方なく楓の脇腹を抓り上げるだけで妥協することにした。


……そしてバスは目的地へと到着し、二人はバスを降りた。

火照った体に一段と冷たくなった風が吹き付ける。

身体の芯までもがゾクゾクと震え上がり、光は思わず肩を抱きすくめた。

「歩けますか?」

両手に買い物袋を抱えてふらつく楓。

そんな彼以上に足取りのおぼつかない光は楓の問いかけに、物言いたげに眉をひそませながら唇を噛み締めた。

「苦しい? ……もう我慢できないですか?」

光が求めていることを察し、楓が光の顔を覗き込む。

「……っ」

まるで小動物のように瞳を潤ませながら、光は楓を見つめ返して小さく頷いた。

「……ちょうど公園があって良かった」

光たちの降りたバス停の目の前は小さな公園となっていた。

すっかり日が暮れ、生い茂る草木が不気味な雰囲気を漂わせ始めたそこには当然遊ぶ子供の姿は見当たらない。

「光さん、こっち」

「……!!」

明かりを灯す公園のトイレに歩を向ける楓。

しかし光は楓の言葉を聞いた瞬間、体に熱い電流が走り、その衝撃で動くことができなくなってしまった。

「……ん? どうしました?」

ついて来ようとしない光のもとへと慌てて戻って楓はうつむく光の様子を伺う。

「もう歩けそうもないですか? それとも、くっ付いてないと苦しい?」

「……っ」

光は肯定も否定もせずに黙って真っ赤な顔をうつむかせたまま。

一体どうしたものかと楓は考える。

これまでの光の言動や性格を振り返って、今の彼女の心情を探り……

「……っあ! 名前、呼んじゃったの怒ってるんですか?」

導き出した答えはどうやら的中したらしい。

光はピクッと身を震わせると、睨みつけるような視線を楓に向けた。

「ごめんなさい。うっかり出てしまいました。これからは気を付けるので……」

「べっ……! 別にっ、その……呼び方なら、いいっ……」

絡ませた視線をすぐに反らして光はきまりが悪そうにそう吐き捨てた。


……ああ、これはもしかして……。

光のその挙動で全てを理解した楓。

「わかりました」

そうニッコリと微笑みながら、腹の内では新しく思いついた意地悪を仮想して心を躍らせていた。


……そして2人はどうにかトイレまでたどり着き

「ふはぁーっ……どっこいしょ!」

車椅子の人や授乳などの目的に使用する広い個室のトイレに入ると、楓はドアのカギを手早くかけて荷物を隅に設置されていた簡易なベビーベッドに乗せた。

「今度からは、後々のことも考えてお買い物しましょうね」

嫌味なほどの笑顔でそう言いながら楓は、壁にもたれ掛っている光に詰め寄る。

「こんな体質にさせてしまった僕も悪いんですけどね」

……そうだ。全部全部なにもかも、お前がわるいんだっ……!

うかつに声を出すと、とんでもなく甘ったるい嬌声が漏れてしまいそうで
光はそうやって心の中で悪態づくのが精いっぱいだった。

再び楓の声や香りを至近距離で感じ、くすぶり続けていた欲情がゴウゴウと音が聞こえてきそうなまでに燃え盛り始める。

快楽と、悦びと、めまいのするほどの衝撃と解放感を求めて下腹部が激しく脈打ち、身体の芯を揺さぶる。

……早く。早く欲しい。めちゃくちゃになるくらい……!

懇願の涙の代わりに、熟れた膣口からトプリと熱い蜜が噴きこぼれる。

すでに限界まで濡れそぼってしまっている下着はそれを受け止めきることができず、溢れた愛液はまるで本当の涙のようにツゥゥッ……と太ももを伝い落ちて行った。

……もう我慢できない……っお願い、早く……焦らさないで……っ!

一向に手を出してこない楓に痺れを切らして光は伏せていた目をそろそろと目の前にいる憎たらしい男の顔まで上げていく。

「……っ!」

視線がぶつかった瞬間、楓は心から嬉しそうに目を細めて笑みを作った。

“そう。そんなに欲しいんだ?”

声に出さなくても、楓のそんな言葉が脳に響いてくるようだった。


……何もかも見透かされている。掌握されている。

私は……、もうコイツに逆らうことはできない。


「後ろ、向いて下さい」

笑顔の変態悪魔に囁かれ、光は言われるがままにゆっくりと背を向けた。

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