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「志乃さん?」


ぐっと眉を顰めたまま俺を見つめる志乃さんに、思わず問いかける。
すると、志乃さんはしばらく考えるようにじっと黙る。
俺を見つめたままの顔。

表情こそ変わらなかったけれど、俺は見逃さなかった。

志乃さんの真っ黒な目から光が消えてぼんやりと目が虚ろになったのを。

まずいことを聞いた?そう思うより先に、手が出そうになって伸ばしかけたその時。
志乃さんはそれに気づくようにふっと顔を緩めると、そのままそっぽを向いた。


「金ねぇからかな」

「金がない?」

「そうそう。」

「ご飯食べる金ぐらいあるでしょうよ。」

「ねーの。なぁ、なに入ってんの?」


志乃さんがワケのわからない言い訳をする。
俺としては腑に落ちないのだけど、そこまで問い詰める必要もないかと思って俺はその話からは離れることにした。
そして、もう一度コンビニの袋を指さされたから、俺は思い出したように袋の口を開いた。


「えぇと、志乃さん何が好きかわからないから……適当に買ったんですけど」

「ん?」

「昨日から食べてないなんて思わなくて、せいぜい晩飯食べてないかなーぐらいの気持ちで。」


俺は中に入れておいた、焼きそばパンと唐揚げパンとかいう惣菜パン二つを取り出した。


「え?なになに、俺に買ってきたの?」

「そうです。どっちが好きですか?」

「はぁ?何お前かわいいなー!!」



両手に乗せたパンを一回ずつ見た志乃さんが、俺の顔を見てにかっと笑う。
その姿に思わず、心臓がぎゅううううっと収縮して「うっ」と声が出そうになる。
かわいい、かわいい?
志乃さんの方が可愛い。