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「そういえば志乃さん、前にもたくさん傷ありましたよね」

「はぁ……?」


甘い匂いのする項。
名残惜しく感じながらそこから顔を離して、志乃さんから体を離した。
俺の中の消毒は少しだけ意味を変えていたけれど、そのまま志乃さんの頭を撫でる。

こっちを向かずにくぐもった声を出す志乃さんは、相変わらず不機嫌そうだ。


「見せてください前。しっかり見てないんです」

「……やだよ」

「どうして?」


床に突っ伏したまま、ゆるっと頭を動かした志乃さん。
俺はそんな志乃さんの肩に手を掛けた。


「前にもたくさん傷あったでしょ?」

「そんな、消毒するほどじゃなかったろ。」

「いいから、見せてください」


そのままぐいっと肩を持ち上げる。
そして、ひっくり返すように対面に押した。
案外簡単にくるっと回った志乃さんの体。

けれど、志乃さんの右手は目に掛かったままだ。
俺は、何も考えずにその右手を退けた。


「し、のさん?」

「なんだよ……」


右手を退けたあとに見えた志乃さんの顔は、薄明かりでもわかる程度には上気している。

え?どうして?と、思う間もなく志乃さんは、足を擦り合わせた。
どうやら無意識のままなのだろう。

俺が掴んでいる右手が重い。