4 「そういえば志乃さん、前にもたくさん傷ありましたよね」 「はぁ……?」 甘い匂いのする項。 名残惜しく感じながらそこから顔を離して、志乃さんから体を離した。 俺の中の消毒は少しだけ意味を変えていたけれど、そのまま志乃さんの頭を撫でる。 こっちを向かずにくぐもった声を出す志乃さんは、相変わらず不機嫌そうだ。 「見せてください前。しっかり見てないんです」 「……やだよ」 「どうして?」 床に突っ伏したまま、ゆるっと頭を動かした志乃さん。 俺はそんな志乃さんの肩に手を掛けた。 「前にもたくさん傷あったでしょ?」 「そんな、消毒するほどじゃなかったろ。」 「いいから、見せてください」 そのままぐいっと肩を持ち上げる。 そして、ひっくり返すように対面に押した。 案外簡単にくるっと回った志乃さんの体。 けれど、志乃さんの右手は目に掛かったままだ。 俺は、何も考えずにその右手を退けた。 「し、のさん?」 「なんだよ……」 右手を退けたあとに見えた志乃さんの顔は、薄明かりでもわかる程度には上気している。 え?どうして?と、思う間もなく志乃さんは、足を擦り合わせた。 どうやら無意識のままなのだろう。 俺が掴んでいる右手が重い。 |