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『消毒するもんねぇよ』と、ちらりと俺を見て、すぐに顔を伏せた志乃さん。
少しだけ湿っぽい金の髪の毛を撫でた。


「……痛いの嫌いって言ってんだろ」

「でもなにかバイ菌入っちゃうかもしれない」

「あー?」

「前は塞がってるけどこっちは塞がってないんですよ」


傷口の周りには、血がべっとりと広がっている。
そんな大量ではない。
ぴっと紙で切ってしまって、血が出る時がある。それの少しひどい版……って感じ。
確かに放置をしていたら塞がるだろうけど。
血を拭うように撫でたら、志乃さんが「うっ」と息を詰めた。


「痛いです?」

「……ひりひりする。」

「これ、何されたんですか」

「わかるだろ、切られたんだ」

「それはわかるけど……その人相当サディスティックですね。」

「タチ悪い、趣味悪ぃよ。」


きれいな肌なのに。
そう思ったけれど、目を凝らしてみればいくつものケロイドがあった。
志乃さんが何度もその客と寝ている証拠だ。

その度志乃さんはこんなふうに疲れてボロボロになっているのだろうか。
そりゃ、この仕事自体疲れない仕事ではないけど。

白い肌に浮かぶ傷。
俺はそっと唇を近づけて、そのまま押し当てた。


「、ハル」

「消毒、です。」


そしてそっとその傷口の淵から舌を這わせる。
舌先に走るチリチリとした刺激。
遅れて感じる鉄の味と、独特な匂いに俺は眉を寄せた。