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体中に散らばる切り傷。
首を絞められた跡。噛み跡。
腹部には軽く痣まである。


「ハル、痛い」


その跡を拭いたくて、爪を立てる。
剥がれてしまいそうだと思う。
いっそ剥がれてしまって欲しい。


「ハル、いたいって」


爪の食い込んだ所の色が変わる。
黄色くなって色が無くなっていく。


「ハル!!いてぇ!!!」


志乃さんの大声に体がびくんっと跳ねて、手を離す。
志乃さんの首には爪痕がくっきりと着いていた。


「わ、わ……ご、ごめんなさい」

「ってー……何されるのかと思った」

「剥がれそうで……」

「剥がれるわきゃねーだろ」

「そうなんですけど……」


少し機嫌を悪くした志乃さんが、首を擦る。


「別料金だぜ。一応商品だからな」

「いくらなんですか?」

「さーあ。俺はよく知らねぇけどSMは高いぜ」



つけてしまった爪の跡をそっと撫でる。
すると、志乃さんはぴくんっと震えて、俺の手をやんわりと拒否した。


「俺、痛いの嫌い」

「嫌いなのにこんなにさせたんですか」

「……うるせぇ。お前には分かんねーよ。」


くるっと寝返りをうった志乃さん。
俺の目の前に広がる背中には、一際大きな傷がある。
まだ血が出ていて、傷が塞がりきってない。


「志乃さん、消毒しましょ」

「はぁ?」

「だってしてないでしょ?」

「しなくたっていい、いつもしねーから」

「じゃあ、俺がしたいからします。見てられないんですもん。」