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「志乃さん」

「っん、わ……」


そのまま頬にある手に自分の手を重ねて、握り込むと、引っ張った。
突然のことだったからか、弱い力でも簡単に志乃さんの体は動いて、そのまま俺の体の上に倒れ込んだ。


「触っても、いい?」

「ん、……すんの?」

「怪我の具合見てもいいですか?」


イエスもノーも言えなかったのは、……保証なんてどこにもないから。


「気にしなくてもいいって」

「痛くするのは趣味じゃないんです。勃たない。それに……志乃さん。お話うまいじゃないですか」

「それは、ん……お前が、上手いんだよ……」


俺がやる。
と全く言ってこない大人しい志乃さんを、ゆっくりと横にさせる。
横たわらせて、そのまま顔にかかってる髪の毛を全部横に払った。


「……志乃さん、煽らないでよ」

「煽ってねぇよ、デフォだ」

「エロい人」

「このむっつりめ」


これがデフォだなんて、だったらこういう仕事の素質があるんだ。
少しだけ恥ずかしそうにする志乃さんをみて、俺は喉を鳴らした。
それを見た志乃さんは、たぶん自分で気付きはしてないけど体を固くした。
だから、俺は安心させるように志乃さんの頭に触れた。

あなたが嫌ならしないし、俺はそれ目当てに来たんじゃない。
ただ、あなたに会いに来ただけだ。

そう思ったって、この店がそういう店だから信憑性なさすぎるけど。


「むっつり、か……そうなんですかね」

「むっつりだろ。」

「……あ、そういえば俺、志乃さんのことずっと考えてたんです。前言ったでしょ?ブルーバスターのファンだって。知り合いに限定のポスターもらって……。」

「限定の、ポスター?」

「そう、初回限定盤にしかついてない抽選券で10人にしか当たらないやつ」

「あー……あれか……」

「そう、それをもらったんです。」

「へぇ……まぁ、今は売っても1円にもならねぇだろうな」


志乃さんの体に跨って、体を撫でながら話していたら、ふと聞いたことないような声が聞こえて俺は志乃さんを見上げた。
なんだか、嘆くような声。
自嘲気味で冷たい声。

当の志乃さんはこっちを見ていなくて、部屋の角の方に視線を投げたままだった。


「志乃さん?」

「あ?」


少しだけ虚ろになった目を向けてきた志乃さん。
でも俺は、それの対処方法をまだ知らない。
逃げるように首に目を移した。


「志乃さん、これ痛いですか?」


近くになった分よく見える跡は、かなりくっきり残っていた。
明日には消えるんだろうか。
それすらもわからないほどくっきりと残っている。


「痛くない。よく締まるんだとよ。ケツつかってる時点でかなり締まりはいいはずなんだけど、俺緩いのかもなぁ。」

「うんこ漏らします?」

「いや……あー、でも出やすいかも」

「聞きたくなかったです」

「お前が聞いたんじゃねぇか」


その首の跡は、志乃さんを締め付ける何かが、目に見えているんではないか。
そう思ってしまって、俺は無意識にその跡を剥がそうと爪を立てていた。