5 「志乃さん」 「っん、わ……」 そのまま頬にある手に自分の手を重ねて、握り込むと、引っ張った。 突然のことだったからか、弱い力でも簡単に志乃さんの体は動いて、そのまま俺の体の上に倒れ込んだ。 「触っても、いい?」 「ん、……すんの?」 「怪我の具合見てもいいですか?」 イエスもノーも言えなかったのは、……保証なんてどこにもないから。 「気にしなくてもいいって」 「痛くするのは趣味じゃないんです。勃たない。それに……志乃さん。お話うまいじゃないですか」 「それは、ん……お前が、上手いんだよ……」 俺がやる。 と全く言ってこない大人しい志乃さんを、ゆっくりと横にさせる。 横たわらせて、そのまま顔にかかってる髪の毛を全部横に払った。 「……志乃さん、煽らないでよ」 「煽ってねぇよ、デフォだ」 「エロい人」 「このむっつりめ」 これがデフォだなんて、だったらこういう仕事の素質があるんだ。 少しだけ恥ずかしそうにする志乃さんをみて、俺は喉を鳴らした。 それを見た志乃さんは、たぶん自分で気付きはしてないけど体を固くした。 だから、俺は安心させるように志乃さんの頭に触れた。 あなたが嫌ならしないし、俺はそれ目当てに来たんじゃない。 ただ、あなたに会いに来ただけだ。 そう思ったって、この店がそういう店だから信憑性なさすぎるけど。 「むっつり、か……そうなんですかね」 「むっつりだろ。」 「……あ、そういえば俺、志乃さんのことずっと考えてたんです。前言ったでしょ?ブルーバスターのファンだって。知り合いに限定のポスターもらって……。」 「限定の、ポスター?」 「そう、初回限定盤にしかついてない抽選券で10人にしか当たらないやつ」 「あー……あれか……」 「そう、それをもらったんです。」 「へぇ……まぁ、今は売っても1円にもならねぇだろうな」 志乃さんの体に跨って、体を撫でながら話していたら、ふと聞いたことないような声が聞こえて俺は志乃さんを見上げた。 なんだか、嘆くような声。 自嘲気味で冷たい声。 当の志乃さんはこっちを見ていなくて、部屋の角の方に視線を投げたままだった。 「志乃さん?」 「あ?」 少しだけ虚ろになった目を向けてきた志乃さん。 でも俺は、それの対処方法をまだ知らない。 逃げるように首に目を移した。 「志乃さん、これ痛いですか?」 近くになった分よく見える跡は、かなりくっきり残っていた。 明日には消えるんだろうか。 それすらもわからないほどくっきりと残っている。 「痛くない。よく締まるんだとよ。ケツつかってる時点でかなり締まりはいいはずなんだけど、俺緩いのかもなぁ。」 「うんこ漏らします?」 「いや……あー、でも出やすいかも」 「聞きたくなかったです」 「お前が聞いたんじゃねぇか」 その首の跡は、志乃さんを締め付ける何かが、目に見えているんではないか。 そう思ってしまって、俺は無意識にその跡を剥がそうと爪を立てていた。 |