3 スーツを着たボーイが、「こちらで」と言って軽く会釈をする。 そして、2回ほどノックをしてガチャっとドアノブを捻った。 しかしボーイの人はそこでお辞儀をする。 自分のタイミングで行けということだろうか。 そんなサービスいらないんだけど。 いっそのこと開けてくれた方が嬉しい。 バンジージャンプに自分のタイミングでいけと言われているようなもんだ。 俺は絶対に押されたいタイプ。 俺は一瞬戸惑ってから、ドアに手を付いた。 ここまで来て逃げるわけにはいかない。 行ってくるしかない。 そう決意してぐっとそのまま手を前に押し込む。 すると徐々にドアが開いていった。 部屋の中はいたって普通。 ここの外見は結構くたびれていて、カラオケボックスをそのまま変えたみたいなところだったから、予想はしていたけど、結構まんまな感じだ。 そう、そこまでは予想通りだった。 けど…… 「え……?」 思わず声をあげてしまう。 だって……。 「わー、おにーさん。いらっしゃーい」 俺は急いで、『ここはちょっと特別な所だから。穴場だよ』だなんて上司が言っていた言葉を思い出す。 聞き流していたのだ。 しかし、今はその言葉が脳にインプットされるように強烈に蘇った。 声を聞いて、そしてしっかりと顔を捉えて俺は目を見開いた。 「シ、ノ?」 金髪の髪の毛、整った顔。 見覚えがありすぎる。 どうして彼がこんなところに? でも、彼は俺の高校生の時のアイドルの、shino。 見間違えるはずはない。 だって俺、大好きだったから。 何度会いたいと思ったことか。 何度会いたいと願ったことか。 彼は一世を風靡した人気バンド『BLUE BUSTER』のヴォーカル。 目を見開く俺を他所に、シノは少しだけ目を細めて、吸っていた煙草をぐりぐりと灰皿に押し付けるとその灰皿を奥にやった。 まさか、夢? いやいや、いくらシノが好きだからと言って、こんな風俗店にシノがいるなんて妄想はしたことない。 それに、俺がシノに抱くのは恋じゃなくて憧れや尊敬の方の好きだ。 まさか、……シノを、おかずにするほど溜まってる? いやいや。 俺は思わずふとももを抓った。 うん、痛い。 夢じゃない。 てことは、本気でシノだ。 シノが、風俗に、居る。 しかも、奉仕する方で。 上司はこのことを言っていたのだろうか。 ……まさか、シノがいるとは思っていなかった。 完全に、予想外過ぎて俺の頭は真っ白だ。 シノは男だぞ。 完全に女しかいないと思ってた上に、俺が高校生活を捧げたバンドのヴォーカルである、シノがいるとは。 意外どころではない。 呆然と立ち尽くしている俺を見て、シノは唇を引き延ばして笑った。 切れ長の目が細められる。 「まぁまぁ、座んなよ」 「え、あ……」 「あはは、硬くなりすぎ。何飲む?」 思わず正座をしてしまえば、「崩しな」と膝に触られる。 触られるがままに足を崩せば、シノは面白そうにくっくっと笑った。 |