2 「小早川、どうして呼んだか、わかっているな」 バイトが帰る5時。 隼也は必ず5時で帰る。 そんな隼也が少しだけ俺を心配そうに見つめていた。 『風邪っすか?』 デスクに置いている時計の長針が、かちっと音を立てて12のところから少し離れたのを見て、俺は驚いた。 『……無理したらダメっすよ』 いつもからかってきてばかりのあいつが、本気で心配してきてるのを見て、はっとする。 そういえば今日はそんなに絡まれなかった気もするし。 俺、そんなに余裕、無かった? 「はい」 隼也がその場から居なくなったのは、長針が1を指してからだった。 定時よりも一1秒たりとも長くこの場にいたくないというあいつが、初めてだった。 「体調が悪いのか?」 「あ、いや……別に」 隼也が居なくなってすぐに、課長が俺の名前を呼んだ。そして、傍までいくと、怪訝そうな顔で覗きこまれる。 逸らすわけにも行かず、遠慮勝ちに見つめ返したら、はぁーーーとため息を吐かれた。 そして課長が取り出したのは、デスクの端に置いてあった書類だった。 それを俺の前に出して、指をさすと俺を軽く睨む。 「お前らしくもない。これ、見直してみろ」 その書類は、見るところ、俺が昼前に提出したものだった。 俺はその書類を見えやすい位置まで持つと、じっと見つめた。 「え……」 するとそこには、見てすぐにわかるミスが何個も散らばっていた。 俺は必ず提出するものは読み返すはずなのに、それすらもした覚えがない。 「使えない体で来るな。有給とればいいだろう」 「っ、すみません……」 「別に怒ってはない、次から気をつければいいだけの話だ」 ため息を吐きたい。 俺は頭を下げながら、眉を寄せた。 「取り敢えずこれはこっちで直しとく。お前はもう帰れ」 「いやでもそんな……」 「使い物にならないやつは居ても邪魔なだけだろう。最近ずっと顔が赤かったぞ」 「……っ」 課長がいうのもごもっともだ。 俺はここのところずっと、上の空だったし……。 「体調が万全になるまで休め」 「すいません……」 書類を俺の手から取って、またデスクの端に置く課長。 シノの影響がここまで来てることに、俺は一人で嘆息するしかなかった。 |