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「小早川、どうして呼んだか、わかっているな」


バイトが帰る5時。
隼也は必ず5時で帰る。

そんな隼也が少しだけ俺を心配そうに見つめていた。


『風邪っすか?』


デスクに置いている時計の長針が、かちっと音を立てて12のところから少し離れたのを見て、俺は驚いた。


『……無理したらダメっすよ』


いつもからかってきてばかりのあいつが、本気で心配してきてるのを見て、はっとする。
そういえば今日はそんなに絡まれなかった気もするし。
俺、そんなに余裕、無かった?


「はい」


隼也がその場から居なくなったのは、長針が1を指してからだった。
定時よりも一1秒たりとも長くこの場にいたくないというあいつが、初めてだった。


「体調が悪いのか?」

「あ、いや……別に」


隼也が居なくなってすぐに、課長が俺の名前を呼んだ。そして、傍までいくと、怪訝そうな顔で覗きこまれる。
逸らすわけにも行かず、遠慮勝ちに見つめ返したら、はぁーーーとため息を吐かれた。
そして課長が取り出したのは、デスクの端に置いてあった書類だった。
それを俺の前に出して、指をさすと俺を軽く睨む。


「お前らしくもない。これ、見直してみろ」


その書類は、見るところ、俺が昼前に提出したものだった。
俺はその書類を見えやすい位置まで持つと、じっと見つめた。


「え……」


するとそこには、見てすぐにわかるミスが何個も散らばっていた。
俺は必ず提出するものは読み返すはずなのに、それすらもした覚えがない。


「使えない体で来るな。有給とればいいだろう」

「っ、すみません……」

「別に怒ってはない、次から気をつければいいだけの話だ」


ため息を吐きたい。
俺は頭を下げながら、眉を寄せた。


「取り敢えずこれはこっちで直しとく。お前はもう帰れ」

「いやでもそんな……」

「使い物にならないやつは居ても邪魔なだけだろう。最近ずっと顔が赤かったぞ」

「……っ」


課長がいうのもごもっともだ。
俺はここのところずっと、上の空だったし……。


「体調が万全になるまで休め」

「すいません……」


書類を俺の手から取って、またデスクの端に置く課長。
シノの影響がここまで来てることに、俺は一人で嘆息するしかなかった。