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「どうぞ」


目の前にお茶が出されて、振り返る。
誰だっけ、えっと。
そう思って見つめたらにこりと微笑まれた。


「冷たい方がいい?」

「あぁ、いい、いい。冷房効き過ぎて寒いしね」

「……課長が暑がりだから……私も寒くて。」

「体冷やさないようにしないとね」

「ふふ、小早川くんって優しいよね、ほかのみんなも言ってた」

「ほかのみんなって何?」


綺麗な真っ直ぐの髪の毛。
染めたことがなさそうな黒色。
彼女が笑うのに合わせて笑う。


「あー、早川さんがナンパしてるー」


同期の人だったなぁ……そう思いながら名前を探していたら、また声が聞こえた。


「だから、早川じゃないって」

「課長に言いつけてやろー」

「やめろ、もうコピーは終わったのか」


彼女が片付けてくれた椅子を引っ張ってきて、そこにどかっと腰掛けると、隼也はニヤニヤと笑った。


「焦ってるーかーわいいーっすねー」

「はぁ……」


彼女は一礼すると、自分の持ち場に戻っていった。あー、お礼を言うのを忘れてたなぁ。
相変わらず隣にまとわりついてくるような隼也はウザい。
こんなこと言えやしないけど。
俺はパソコンに向き合うと、仕事をしているから邪魔をしないでオーラを出してみることにした。


「コピーちゃんとやったっすよ」

「わけた?」

「分けたっすよー。50部とかいうから、5枚コピーしてコピー機5台使ったっす」

「無駄に頭がいいな」

「無駄ってなんすか!」


派手な金髪、軟派な喋り口調に伴わず、隼也は仕事ができる。
この家系の血なんだろうか。
またそこが憎い。


「ねぇ、教えて下さいっす。早川さん」

「わからない?いま仕事中」

「しながら話たらいいじゃないっすか」

「大声で話せることじゃない」

「俺が耳近づけとくから」

「あのなぁ、ミスするだろ」

「早川さんそんなドンくさいとおもってないっすから、俺」


そういう問題じゃないのに。
隼也はニコニコしながら俺に耳を近づけてくる。
近いし、なんか整髪料の匂いがすごい。
鳥肌たってきた。


「アレでしょ?芸能人の人いたんっすよね?早川さんが抱いたのって誰っすか?」

「早川さんなんて知らない」


あーーー、もう、来なきゃよかったかもしれない。