3 「どうぞ」 目の前にお茶が出されて、振り返る。 誰だっけ、えっと。 そう思って見つめたらにこりと微笑まれた。 「冷たい方がいい?」 「あぁ、いい、いい。冷房効き過ぎて寒いしね」 「……課長が暑がりだから……私も寒くて。」 「体冷やさないようにしないとね」 「ふふ、小早川くんって優しいよね、ほかのみんなも言ってた」 「ほかのみんなって何?」 綺麗な真っ直ぐの髪の毛。 染めたことがなさそうな黒色。 彼女が笑うのに合わせて笑う。 「あー、早川さんがナンパしてるー」 同期の人だったなぁ……そう思いながら名前を探していたら、また声が聞こえた。 「だから、早川じゃないって」 「課長に言いつけてやろー」 「やめろ、もうコピーは終わったのか」 彼女が片付けてくれた椅子を引っ張ってきて、そこにどかっと腰掛けると、隼也はニヤニヤと笑った。 「焦ってるーかーわいいーっすねー」 「はぁ……」 彼女は一礼すると、自分の持ち場に戻っていった。あー、お礼を言うのを忘れてたなぁ。 相変わらず隣にまとわりついてくるような隼也はウザい。 こんなこと言えやしないけど。 俺はパソコンに向き合うと、仕事をしているから邪魔をしないでオーラを出してみることにした。 「コピーちゃんとやったっすよ」 「わけた?」 「分けたっすよー。50部とかいうから、5枚コピーしてコピー機5台使ったっす」 「無駄に頭がいいな」 「無駄ってなんすか!」 派手な金髪、軟派な喋り口調に伴わず、隼也は仕事ができる。 この家系の血なんだろうか。 またそこが憎い。 「ねぇ、教えて下さいっす。早川さん」 「わからない?いま仕事中」 「しながら話たらいいじゃないっすか」 「大声で話せることじゃない」 「俺が耳近づけとくから」 「あのなぁ、ミスするだろ」 「早川さんそんなドンくさいとおもってないっすから、俺」 そういう問題じゃないのに。 隼也はニコニコしながら俺に耳を近づけてくる。 近いし、なんか整髪料の匂いがすごい。 鳥肌たってきた。 「アレでしょ?芸能人の人いたんっすよね?早川さんが抱いたのって誰っすか?」 「早川さんなんて知らない」 あーーー、もう、来なきゃよかったかもしれない。 |