2 「お前に話す話は何もないよ」 「俺どんな話でも楽しく聞くっすよ?」 「そういう問題じゃないんだよ」 相変わらずムカつくというか、緩いというか。 そもそも、コイツがこんな態度をとっても誰も怒らないのには理由がある。 だって今だって事務の女の子が目の前にお茶を出した。 「出さなくていいよ」と耳打ちしたら、いや……という顔をされた。 出せと言われてるんだろうか。 その金髪は「おねーさんありがとー」なんて言ってそのお茶を啜っている。 お前もそれ飲むなよ。 そして、実は課長が俺に世話係を任命したのにも理由がある。 一応建前慣れてきただろ、と言われたが、それだけじゃないのは俺もわかっている。 だって俺と同期のやつは5人いるんだから。 俺だけがその状況にあるわけじゃない。 すべての理由はコイツの名前にある。 楢崎。 コイツの苗字はは社長の苗字と一緒だ。 そして、一応俺の親戚……に、最近なった。 「隼也くん、来てたんだ」 「あ、はーい。来てましたよー。」 「じゃあこのコピーお願いねー」 「うぃーっす!」 つまるところ、姉の結婚相手の弟。 姉の結婚相手が、社長。 なんの因果か、俺の就職先の社長と結婚した姉は、「玉の輿」だなんてはしゃいでいたが、俺はそれどころじゃない。 就職して三ヶ月の時にそれが決まって、周りには腫れ物のように扱われる毎日。 同期には少し素っ気なく対応されていた。 そんなことを知ってか知らずか 気前よく返事をしたそいつは、その資料を持つと俺に「教えてくださいね」なんてハート付きで言うとコピー機の前まで走っていった。 鳥肌が立った。 隼也はバイトだ。 つい最近入ったバイト。 隼也はそういう家系だから、バイトなんてする必要ない筈なのに、自分から進んでやりたいと言ったらしい。 なんでも理由はともだちがしてるから、だそうだ。 友達とお前は境遇が違うんだ、考えろ、と言いたいが、コイツは社長とは13歳とか歳が離れているらしく、まだ学生。 両親にも大変チヤホヤされているらしい。 ゆくゆくはこの会社に就職するらしいが、正直来ないで欲しい。 社長の〜が付く限り社長か俺ぐらいしかコイツに何かいうことはできない。 しかも俺だってそこそこなにか言える立場じゃないけど、周りに言ってくれと頼まれるという厄介な役目を負わされている。 |