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「お前に話す話は何もないよ」

「俺どんな話でも楽しく聞くっすよ?」

「そういう問題じゃないんだよ」


相変わらずムカつくというか、緩いというか。
そもそも、コイツがこんな態度をとっても誰も怒らないのには理由がある。
だって今だって事務の女の子が目の前にお茶を出した。

「出さなくていいよ」と耳打ちしたら、いや……という顔をされた。
出せと言われてるんだろうか。

その金髪は「おねーさんありがとー」なんて言ってそのお茶を啜っている。

お前もそれ飲むなよ。

そして、実は課長が俺に世話係を任命したのにも理由がある。
一応建前慣れてきただろ、と言われたが、それだけじゃないのは俺もわかっている。
だって俺と同期のやつは5人いるんだから。
俺だけがその状況にあるわけじゃない。
すべての理由はコイツの名前にある。

楢崎。

コイツの苗字はは社長の苗字と一緒だ。
そして、一応俺の親戚……に、最近なった。


「隼也くん、来てたんだ」

「あ、はーい。来てましたよー。」

「じゃあこのコピーお願いねー」

「うぃーっす!」


つまるところ、姉の結婚相手の弟。
姉の結婚相手が、社長。

なんの因果か、俺の就職先の社長と結婚した姉は、「玉の輿」だなんてはしゃいでいたが、俺はそれどころじゃない。
就職して三ヶ月の時にそれが決まって、周りには腫れ物のように扱われる毎日。
同期には少し素っ気なく対応されていた。

そんなことを知ってか知らずか
気前よく返事をしたそいつは、その資料を持つと俺に「教えてくださいね」なんてハート付きで言うとコピー機の前まで走っていった。

鳥肌が立った。

隼也はバイトだ。
つい最近入ったバイト。
隼也はそういう家系だから、バイトなんてする必要ない筈なのに、自分から進んでやりたいと言ったらしい。
なんでも理由はともだちがしてるから、だそうだ。
友達とお前は境遇が違うんだ、考えろ、と言いたいが、コイツは社長とは13歳とか歳が離れているらしく、まだ学生。
両親にも大変チヤホヤされているらしい。

ゆくゆくはこの会社に就職するらしいが、正直来ないで欲しい。

社長の〜が付く限り社長か俺ぐらいしかコイツに何かいうことはできない。
しかも俺だってそこそこなにか言える立場じゃないけど、周りに言ってくれと頼まれるという厄介な役目を負わされている。