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「あの、ありがとうございます。」

「本当はこんな暇ないんだけど。」


途中で拾ってくれという千尋くんを拾って車を走らせる。
駅周辺の繁華街までは遠い。
けれど、夜中で飛ばせるからそんなに時間はかからないかもしれない。


「すいません、すいません……僕が、僕が止めていればこんなことには」

「そうだね、でも君から聞いても意味がない」

「隼也様は、悪くないんです……あの方は……」

「へぇ、ここまでしていてあいつに罪が全くないと言えるなんて君の性根も腐りきってるね。」


イライラする。
千尋くんに当たったってなんの解決にもならないのはわかっているのに、それしかできない。
頭の中が白くパチパチとして、目の前が頻繁にホワイトアウトする。
眩暈のような感覚が何度も襲ってきて、どうにも叫びたくなる。


「隼也様は、ただ遥幸様が好きなだけで……」

「俺はちゃんと断ったけどね。応えられないって。それに、俺のことが好きなら、俺の好きな人も守るべきなんじゃないのか。どういう育て方をしてるんだ」

「申し訳ありません……っ。」

「辛いのは俺じゃない。志乃さんだ。志乃さんがどうしてこんな目に合わなくちゃならない。俺のせいで……っ」

「隼也様も、遥幸様を心配していらっしゃったのです。」

「そんな心配いらないよ!子供でもない!どうしてあいつのエゴに付き合わされなくちゃならない。どうして俺が子供の恋愛に付き合わなくちゃならないんだ。俺が誰を好きになろうとあいつには知ったこっちゃないだろう!!」

「……っ、あなたは志乃様のことを知らないからそんなことを言えるんだ……っ」

「そんな事言われたって、今回のこのことをチャラにすることにはならないだろ!なんだい。君は境遇が劣っている子は何しても許してあげるというのかい?人殺しをしたって!」

「そんなことは言ってません!」

「言ってることは同じだ!!」


車の中で怒鳴りあって、当事者でもないのに。
ここで何を話しても変わらないのに。

千尋くんは俺の太ももを抓るし、挙句の果てに頬を叩くし。

それでも怒りなんか冷めなくて、冷静な判断ができないまま車は進んでいっていた。