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はぁ、はぁ、と息をする2人。
銀髪の男が離れた後、野放しになった志乃はごろりと四肢を投げ出した。

紅潮した頬。
腹に散らばった白い液体。

何もかもが未知の世界で俺はくらりと目の前がゆがむのを感じた。

隣の男が持っているカメラにはしっかりとその男が写っている。


「こんな感じでどーすか。」

「うん、いい感じありがと。」

「いえいえ。こんなんお安いごよーっす。」


そんな会話が隣で聞こえた。
自分のしようとしていたことなのにどこか水をかけられたような衝撃を受けている。


「楢崎くん?満足?」

「え……」


こちらに目線を少しも寄越さない志乃。
胸は上下しているのに何故か死んでいるように見えて悪寒がした。

それなのに隣の男は何も気にせずあくびをしている。
ちらりとこっちをみて、冷めた目で俺の返事を待っている。
眼鏡越しの瞳には光がない。

その瞳は俺の心の底まで覗いていそうで俺は慌てて目をそらした。

怖い。


「金、あります?」

「え、あぁ。そこ……」


用意していたアタッシュケース。
その中から札束を取り出すと、ジンはひったくるようにしてそれを取った。
一瞬俺を見たその目は心底軽蔑しているような目をしていた。


「お役に立てましたか?」


なんていうその目はもう細められていて、さっきの目は嘘のようだ。


「うん」

「そう、それは良かった。また機会があったら呼んでくださいよ。」


営業スマイル。
それを貼り付けて出ていくジン。
その奥ではメガネの男がじっと俺を見ていた。