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耳を劈くような音に慌てて飛び起きる。
ガバリと体を起こすと携帯が鳴っているようだった。

真っ暗の中でライトを点滅させながら、部屋を照らす画面に眉をしかめる。
そして携帯に手を伸ばした。

着信だ。
俺、こんなにうるさい設定にしてたっけ。
いつもは聞こえるか聞こえないかのはずなのに。

慌てて画面を見ると見たことない番号だった。
着信を受けるボタンを押して、それから受話器を耳に当てた。

誰だよもう……。


辺りはほの明るい。
もうすぐ起きる時間だろう。
こんな時間に睡眠を邪魔するなんて。


「もしもし。」


若干イラつくのを感じながら声を出す。


「小早川さんのお電話でお間違えありませんか?」


少し高いトーンの声音。
けれど間違いなく男。
そんな声が聞こえてきてさらに誰かわからなくなった。


「そうですけど。」


会社か?
なんかトラブル?


「私、千尋と申します。こんな早朝にお電話申し訳ありません。」


綺麗な言葉遣いに柔らかな物腰。
その中に確かに感じる焦り。

ちひろ、ちひろ……。

誰だ?
俺はチヒロなんて名前の男なんて知らないぞ。

寝起きでぐるぐるとする頭で考える。
考えようとしているだけで、まだ寝ている頭は多分動いてない。


「ちひろ、……どうしたんですか?」


ふわふわとした口調になっているのがわかる。

そう問いかけると携帯の向こうでごくりと唾を飲む音が聞こえた。


「あの、シノ……都志乃さんのことで。」