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「シノさん、俺はねあなたのファンです。純粋に歌もうまいし声もいい。才能があると思う。だけどさ、この世界それだけじゃ生きていけねーんだよ。」


噛み締めるように歯を見せたジンが、唇を合わせて息を吸い込む。
唐突に流れ込んできた世辞に、体がひくりと少しだけ反応した。
ジンはそれを感じると、一瞬だけ目から光を消した。
けど、その光はすぐに戻ってきてまた俺を見つめた。

俺にはその目が何を隠しているのかわからない。


「歌が上手い、声がいい、それだけじゃ一発屋にしかなれない。一発ドカンで終わり。シノさん、あんたは売れるべきじゃなかった。」

「どういう、意味だよ」

「長くここに留まるには、まず運が要る。運だけじゃない、周りへの立ち振る舞い方。それから人を引きつける力がいる。客じゃなくて仕事をくれる人をだ。あんたにはそれがない。何度あそこに戻っても末路は同じ。どうしたって変わらない結末だよ」


頭がガツンと殴られた衝撃で目の前が揺れた。
そんなの俺の力でどうにかなることじゃない。


「それが、俺がこうなってる、理由、かよ」

「そうだね」

「なんだよそれ、俺は関係ねぇじゃん、俺がどーしたって無理じゃん」

「だから無理って言ってるんでしょ。この世界があんたに向いてないんだよ。あんたが悪いんじゃない、周りが悪いって言ってもいいよ。だから無理なんだよ」


一番納得できて、一番残酷な理由だと思った。
だけど納得できるのが悔しかった。


「人に媚びたりできないでしょあんた。歌う以外しなくないんでしょ。一回出たバラエティも面白くないって降ろされてたもんね。だめなんだよ、歌えるだけじゃさ。逆に、歌えなくても売れる時代なんだから。例外なんて星の数ほどあるバンドのひとつまみだよ。結局シノさんたちだって、歌が上手くて声も良くてもみんなにとっては数あるバンドのボーカルの1人なんだから。量産型される商品の一つなんだから。」

「……っ、は」

「それだけじゃ生きていけない世界なんだよ。シノさんは確かに凄い、だけどそれだけで生き残るには弱い。だって機械でどうにでもできちゃう時代なんだから。結局さ、どうあがいたって、シノさんはあの世界にはイラナイ存在なの。」


イラナイ存在。
明確な理由とともに突きつけられたナイフに悲しみは感じなかった。
そうだと思った。

俺は間違えていたんだ。

とさえ思えた。


結局いくら歌に自信があっても、新しいものがたくさん出し尽くされた世界じゃ飽きられる。

注目され続けるには努力がいる。
それなりの代償もいる。
歌以外のスキルもいる。

それを払ってこいつは今そこにいる。

俺にはそんなことは出来ない。


それなら俺は、もう、そこに行かなくてもいいんじゃないか。

あれはもう夢だったのだと、諦めれば楽になるんじゃないか。