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俺がさっき踏んだ胸は、赤くなって血が滲んでいた。
痛そうに顔を歪める志乃は、俺を睨んでいた。

元のドア際に戻りながら、俺は手を握りしめた。

そんなに俺ばっかりを悪者として見るなよ。
俺は悪くない。

コイツが悪い。

俺はちゃんと言った。

こうなることを言った。

それなのに約束を破ったのはコイツだ。

こうなることをわかっててやったんだろ。

知らなかったとは言わせない。

俺はちゃんと言ったんだ。


気分を落ち着かせるようにタバコを一本取り出して口に咥える。
火をつけて煙を吸い込んだら少しだけ気分が落ち着いた。

絶え間なく音が聞こえるのを聞きながら、俺は目の前のふたりを見た。するとジンが志乃の足を乱暴に開かせている所だった。
しばらく放心状態だったような志乃だったが、それにハッとするとさっきよりも弱々しくなった抵抗を始める。

しなきゃいけないという使命感でしているだけで、本当に抵抗しているわけじゃない。
形だけの抵抗。

俺は早川さん意外に抱かれるなんて考えるだけで反吐が出る。
ほかの男に自分の上で腰を振られるなんて、考えても考えられない。

それなのに、この目の前の人は本気で抵抗しない。
手も自由で足も自由なのに何もしない。
弱々しく抵抗するだけ。

それが無性に癇に障る。


「やめ、ろ……ってあ、ぅぅ……っ」


膝を奥に突かせて、少し腰を浮かせるとそのままジンは志乃の体にローションをぶっかけた。

そして、慣れたように挿入すると、腰を揺らした。

後ろから見るそれはなんとも滑稽で、軽く吐き気がした。


「あ、ぁ、ジン、や……く」


苦しそうな声だとも思ったけど、否応に感じてしまう快感を噛み殺しているような声だとも思った。


「顔こっち向けて」

「はーい」


軽く指示すると、ジンが少し体をずらして、志乃の顔が見えるようにしてくる。
見えた志乃の顔は嫌がってはいるものの、頬や首筋が若干紅潮していた。

思った通り、悦んでる。


「んん、は、ッう、……!」


頭を左右に振りながら、目を固く瞑っている姿。
その姿を見ていると感じる次々と胸の奥からドロドロと流れ出しては行き場をなくしたように塞き止められる嫌悪感。

低くて綺麗だと思った声が、今は酷く汚く聞こえて耳障りで仕方が無い。