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無造作に散らばった髪を揺らしながら、気だるそうに現れた男。
久々に見るのに、何も変わってない気がして懐かしさを感じた。

同時にこんな場所では思い出したくない色んなことが脳内に洪水のように溢れてくる。


「なんでお前が、こんな所に……」

「噂はかねがね聞いてましたけどすごいっすね。ここもだけど、シノさんが。」


黒いブーツをコツコツと鳴らして俺に近づいたジンは、目にかかって邪魔そうな長い前髪を左右に分けた。
そして、眠そうな目をこっちに向ける。

相変わらず端正な顔は中性的と揶揄される顔。
基本何を考えているのかわからない無表情のくせに、俺を見下した目は憐れみと同情と軽蔑の色を孕んでいる気がした。

もしかしたら俺の被害妄想なのかもしれないし、ジンが実際にそういう目でみているのかもしれない。

仕方ないか、という思いと、そんな目で見んなという思いがせめぎあって自分の顔が歪むのがわかった。


「呼ばれたんですよ。」


呼ばれた?……
どうしてこいつが、はじめはそう思ったものの、考えていけばすぐに答えは出た。
俺とジンはよく比べられた。
ネットなんかにもよく似ているとよく書き込まれて、どっちかしか生き残れないだろうと言われていた。
いわばあまり交流はなかったけれどライバルのようなもので、俺が、一番この姿を見られたくない相手。


「シノさん、俺残念っすよ。こんな、落ちぶれちゃって。」


おち、ぶれる。

ダイレクトに響く言葉。
他人に言われるのではなく、身内に言われるようなもんだから、ずしんと胸に突っかかる。

何も知らないくせにいうんじゃねぇよ。
お前俺のこと知らないだろ。
それ言いたいだけだろ。

そう思えない身内の言葉。
同じ状況に立たされる可能性がありながらうまく切り抜けてるやつに言われる言葉。

いつもなら軽く流せてしまうのに、深く深く突き刺さる。

なんだか、お前はとんでもなく人間としてダメなんだと言われている気がする。

いつもは叩ける軽口も全く叩けなくて、俺は唇を噛んだ。
認めたくない事実を改めて突きつけられているようだと思った。


「シノさんこんな服嫌いだったじゃないですか。この緩い服、女みたい。女みたいって言葉言われるのシノさん大っ嫌いでしたよね?」

「うるせぇよ……」

「でも今は女みたいな格好して、女みたいに男誘って足開いてるんだ?あんなにもステージの上じゃ男らしくしてたのに。シノは男らしいって言われてましたもんね?」


ジンは俺の目の前に座ると、さっきまで着ていた白のニットをつまみ上げて俺に見せた。
ふわふわとしていて、体型を隠してくれるニット。


「でも今は逆だ。シノさん実は才能あったんじゃないんすか?」


あざ笑うようなその声に、奥歯を強く噛み締めた。