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「ご無沙汰してます。」


貼り付けたような笑みでこっちを見ると、革靴をカツカツと言わせて中に入ってくる。
前はあんなにラフな格好だったからそれなりに見えたのに、今日は服装が違うからずいぶん年が違って見える。
スーツみたいな……だけどそこまでかっちりしてない格好。


「手城」

「話はこれです」


眉を寄せる。
手城はドア側に立ったまま時計を確認した。


「お客さん、もう営業時間終了しましたよ。」

「それは申し訳ないです。だけど今日の客は僕だけじゃなくて、特別に接待してもらおうと時間を確保してもらったんです。」

「……は?」


何の話だよ。
特別に接待?
そう思ってきょとんとすると、目の前の男は一瞬軽蔑するようにこっちを見た。


「……馬鹿でもわかると思って分かりやすい条件出してあげたと思うんですけどね。わからないとは思わなかった」


そして笑また顔を作った男は、俺の前まで来ると綺麗な立ち仕草で俺を見下ろした。
口調とは似合わない穏やかな顔で、背筋がぞくりと冷える。

俺の中には確かな心当たりがあって、さすがに身に覚えがないわけが無いとは言えない。

けれど、前と同じような上からの高圧的な態度にふつふつと怒りが湧いてくる。
俺のこと馬鹿にしすぎだろ。


「おい、お前馬鹿ってなんだよ。あまりにも人のこと馬鹿にしすぎだろ」

「馬鹿を馬鹿って言って何が悪いんです?あなたには失望しました。僕の努力どうしてくれるんですか。あなたをまたあの舞台に連れていくために準備をしていたというのに」

「……俺は、またあそこで歌い続けられる気がしねぇんだよ」

「……本当に、動物のような方ですね。約束は約束です。ちゃんと言いましたよね僕。約束を破ったらどうなるか。」


約束、という言葉に体がぴくりと反応する。
音楽をする代わりに提示されたのは定かではない脅し。
前は綺麗にセットされていた癖に、今日は綺麗にセットされていない。
その様子がまた目の前の男から大人っぽさを引き出しているようで、前のように「ガキ相手」と思えなくなる。


「おいおい、待ってくれよ。俺は悪かねーよ。あいつが勝手にきて受付が通したんだ。俺のとこに来ちまったら追い返すわけにはいかねーだろうが」

「手城さん」


目の前の男が手城を呼ぶ。
すると手城は軽く会釈をしてボイスレコーダーのようなものを取り出した。


「聞いてな」


ノイズが混じった音と共に、聞こえる声。


『「志乃さん、早川遥幸さんのお越しです。お通ししてよろしいですか。」「……ん」「すいませんもう一度」「通して」』



それは確かに俺が、受付と交わした言葉で目を見開く。