3




頭がくらくらする。
ついでに目の前も暗くなっている気がする。

ここの照明、こんなに暗かったっけ……。

胸焼けがするほど腹の中で何かが煮えたぎるのを感じて、唇を思い切り噛んだ。
何かが漏れてきそうで、でもそれが何なのかわからなくて。
気づいたら口の中には血の味が広がっていた。


いつの間にか切っていた通話。
すぐ様ダイヤルパットを開くと、見なくても打てる番号を押す。

携帯を耳に当てて、天井を仰ぎ見れば電球がひどく眩しくて目の奥を刺した。


「もしもし」

「隼也様。どうなされました?」

「千尋に変わって」

「千尋ですか?分かりました。少しお待ちください」


頭の中で泡ができては、ぷちんと音を立てて弾ける。

あの人は、あいつは、馬鹿だ。
高校を中退しているとか、そんなの関係ない。
人間として知能が劣っている。
野生の動物にだって、犬にだって猿にだって備わっている本能が機能してないんだ。

いや、無くたって考えればわかるだろ。

あんたは最低の選択をしたんだよ。

しちゃいけない選択をしたんだよ。

馬鹿だなぁ、愚かだなぁ。

自ら進んで地獄を選ぶなんて、馬鹿だ。

そんなの押し殺してしまえばいいのに。
あんたのチープな愛なんて、何の価値もないのに。
それなのに未来を棒に振るなんて。
馬鹿だなぁ、馬鹿だなぁ。


「お待たせいたしました申し訳ありません。千尋です。」

「千尋、すべて断って」

「え?」

「契約は破棄だ。裏切られた。」

「あ、あぁ。すべて断っておきます。」

「頼んだよ、千尋」


通話を切ってから、今度は電話帳を漁る。

まさかとは思っていたけど、ないとは言いきれなかった可能性だ。
しっかりと用意はしてある。

なぁ、あんたは何を考えてその行動をした。

俺の考えてること少しは分かってただろ?

何するか、分かってただろ?


俺は優しい。
だからちゃんとチャンスを与えた。
それを無下にしたあいつが、悪い。