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「仕掛けといたやつスイッチ入れときますね」

「あぁ、頼みます。」


無法地帯だ。
プライバシーもあったもんじゃない。


「聞きます?」

「え?」

「ほら。」


盗聴器仕掛けといたのかよ。
そう思いながら、口の中にあるものを飲み込んだ。
食べる前はあんなに美味しそうだったのに、口の中に入れて噛み砕くと一気に美味しくなくなる。
舌にまとわりつく感覚に、どうも美味しさを感じない。
不快。
でもきっと、これはこの店が悪いんじゃない。
俺の味覚が悪い。


「『志乃さん、好きです』……」

「……っ!んぐ、っげほ……っ」


耳元から聞こえてきた声に体が跳ねて、その衝撃で噎せた。
今のは、早川さんの声、だろ。
聞きます?って、それだったのか。

手元にあるナプキンを手繰り寄せて口元を拭きながらこめかみを押さえた。

好きですって……。
本当に入れ込んでる。
電波越しでもわかる優しい声。
俺が一度も聞いたことのないような声。

胸が痛いぐらいに締め付けられて、顔が歪む。

それが、俺に向いていたら俺はどれだけ幸せになれたんだろう、喜べたんだろう。


「『ばか、しつけー……よ。』……『だって、たくさん触りたい』…『わか、ったから、もっと……焦ら、すな……っ』」


紛れもないあの男の声。
上擦ったピンク色に染まる声を聞きながら、ふつふつと怒りが湧いてくる。

なぁ、どうしてあんたなんだ。
どうして、あんたなんだ。

あんたじゃなきゃ俺は、俺は。


「『っあ、……ハル、ぅ』」

「っ、気色悪い……」