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「もしもし」

「あ、楢崎さんであってます?」

「あってますよ。」


ポケットの中で震えながら音を出す携帯の、通話ボタンをタップして耳に当てると声がした。
俺が知っている男の声だ。


「早川さん、来ました。シノ指名で」

「……うん。」

「あれ?知ったような口ぶりですね」

「あぁ、今まで一緒に居たので。」


やっぱりそうか。
あんなに血相変えて出ていくなんて、仕事なんかありえないと思った。
嘘だってわかってた。
携帯を見て目を見開いて、それから少し嬉しそうな、だけど焦ったような顔をして。
ポーカーフェイスでもしてるつもりだったんだろうか。

できてないよ、早川さん。

俺は食べ始めていたラーメンを啜るとはー、と息を吐いた。


「あれ、ラーメンですか?」

「うん。」

「もしかして一緒に食べに行ってたとかですか」

「そんなとこ。」

「へえ、ラーメン食べるんですね……」

「食べますよ。食べ物なんだから。」

「なんだか、ラーメンって庶民って感じがするので食べないかと思ってました」

「あなた達だって食べるでしょ、ラーメン」

「はは、あなたと一緒だなんて烏滸がましい。私は下っ端の下っ端ですからね」


はは、と陽気に笑う声と共に、コツ、コツと歩く音が耳に当てている携帯から聞こえる。
どこを歩いているのだろうか。


「どうします?録画しときます?」


あぁ、そうか。

男の言葉を聞いて俺は目を細めた。

証拠がなきゃ……でもまぁ、言い逃れするとも思えないけど。

憎々しい顔を思い出しながら俺は目を伏せる。


「あー、……いや、録音だけで。見たくない」

「気色悪いですもんね」


……気色、悪い。
そんなことは無いんだけど、ただ単純に見たくないだけ。