1 「もしもし」 「あ、楢崎さんであってます?」 「あってますよ。」 ポケットの中で震えながら音を出す携帯の、通話ボタンをタップして耳に当てると声がした。 俺が知っている男の声だ。 「早川さん、来ました。シノ指名で」 「……うん。」 「あれ?知ったような口ぶりですね」 「あぁ、今まで一緒に居たので。」 やっぱりそうか。 あんなに血相変えて出ていくなんて、仕事なんかありえないと思った。 嘘だってわかってた。 携帯を見て目を見開いて、それから少し嬉しそうな、だけど焦ったような顔をして。 ポーカーフェイスでもしてるつもりだったんだろうか。 できてないよ、早川さん。 俺は食べ始めていたラーメンを啜るとはー、と息を吐いた。 「あれ、ラーメンですか?」 「うん。」 「もしかして一緒に食べに行ってたとかですか」 「そんなとこ。」 「へえ、ラーメン食べるんですね……」 「食べますよ。食べ物なんだから。」 「なんだか、ラーメンって庶民って感じがするので食べないかと思ってました」 「あなた達だって食べるでしょ、ラーメン」 「はは、あなたと一緒だなんて烏滸がましい。私は下っ端の下っ端ですからね」 はは、と陽気に笑う声と共に、コツ、コツと歩く音が耳に当てている携帯から聞こえる。 どこを歩いているのだろうか。 「どうします?録画しときます?」 あぁ、そうか。 男の言葉を聞いて俺は目を細めた。 証拠がなきゃ……でもまぁ、言い逃れするとも思えないけど。 憎々しい顔を思い出しながら俺は目を伏せる。 「あー、……いや、録音だけで。見たくない」 「気色悪いですもんね」 ……気色、悪い。 そんなことは無いんだけど、ただ単純に見たくないだけ。 |