5




汗だくになった体と散ってしまった体液を大量にストックしてあるお絞りで拭き取る。
風呂に入ることができればいいんだが、あいにく風呂が遠い。
せめてシャワーだけでもつけてくれと思うのに、女の子が優先なんだ。


「志乃さん?俺しましょうか」

「あー?んでだよ。」

「疲れてるから……」

「ばかやろー、仕事だからするっつーの。まぁ、客じゃなかったらやってもらってっけどな。」


ハルの体を拭いてやっていたら、ハルが俺の頭を撫でた。
その感覚が心地よくて、そっと目を伏せてから止まっていた手を再開させた。

あぁ、やってしまった。

ゆっくりと押し寄せてくる後悔の念と、俺はもしかしたら取り返しのつかないことをしてしまったんじゃないかと思う感覚。

胸の奥がざわざわと音を立てている。
どくり、どくり、と不吉な音を立てながら背中にじんわりと冷や汗をかいている。

生来プライドは高いほうだが、実はひどく怖がりだったりする。

あともう少しで触れそうな位置まで来たあの気色悪い顔を思い出しながら、小さく体を震わせた。

……みっともねぇ。
あんな小さなガキに、人生握られて。


「どうしたんですか?志乃さん」

「んー、なんが」

「静かだから……」

「俺はもともと静かだろーが」

「でもいっつもはよく喋るのに……」

「お前はもう馴染みの客過ぎて素が出るんだよ」

「なにそれ、勤務怠慢じゃないですか。喜んでいいのか……」

「喜べよ」


はぁ、とため息が聞こえる。
その声に顔を上げてそっちを見れば、なんとも言えない顔をしてるハルの顔があった。
ハルはゆっくり俺に手を伸ばしてくる。


「なに?」

「志乃さん、抱きしめさせて。いちゃいちゃしよう」

「ふっ、いちゃいちゃ、だってよ」


ハルの胸に埋まるように抱きつきながら、その顔と口から出るような言葉ではないようなアンバランスさにふと笑ってしまう。

……、これ以上の地獄なんて、あるかよ。

溶けるような、温度。
俺は幸せに浸りながらこれまで行ってきた地獄を思い出して目を伏せた。