3 ゆっくりと触れた唇が、何度も角度を変えて優しく触れる。 その度に響くリップ音を聞いていれば、そろそろ入れろと言うように顎を押された。 内心ふっと笑いながら口を開ければ、待ってましたというように舌が潜り込んでくる。 甘くて、熱い舌。 ちゅく、という優しい音と共に絡まる舌。 舌で触れ合うだけでこんなにも頭がぼうっとする。 俺はこんなキス、知らなかったかもしれない。 ハルに会うまでしてこなかったかも知れない。 は、とお互い呼吸を合わせて唇を離せば、ハルの目が俺の目を見つめていた。 ぬらぬらと光る唇が色っぽい。 「志乃さんどうして急に会いたいだなんて言ったの?」 「んー、売上落ちてっから。お前来たら延長延長ですげー金落としてくれっだろ?太客だって店長も気に入ってるぜ?」 「……言い方」 「萎えた?」 「萎えた……」 「ふは、もうちんこ勃ってたのかよ」 「違いますよ!!」 「嘘つけ、知ってんだぞ。お前は俺の前じゃいつも元気なむっつりスケベだ」 「なにそれ…呼びつけてそれですか…。ほんとに貴方は」 「…ふは、嘘だよ。会いたくなったんだ、純粋に」 「志乃さん……!」 無くして気付く、とはよく言うもんだ。 俺はハルを取り上げると言われてようやく自分にどれほど大事なものなのか分かった。 取り上げられたくないものだとわかった。 いつまでも近くにいる、いつまでも自分に執着している。そう思ってどこか安心して、自分の感情を先送りにしていたのかも知れない。 都合のいい客? どこまでそれで誤魔化してたんだか。 好きと言ってくれるあいつにいつから俺は甘えてたんだか。 とっくのとうに、俺はあいつがいなければ寂しいという感情を感じていたというのに。 ごまかしごまかしでも保っていたバランスが崩されてしまうほどに、俺はもう他人の愛では我慢出来なくなっている。 陳腐なニセモノの愛じゃ、誤魔化せなくなっている。 「安くしといてやるからよ、な?」 「別にいいですよ」 「じゃあぼったくる」 「それはやめて」 太くて頼もしい首に手をかけて、口角をあげる。 触れる温度が、こんなにも心地いい。 |