1 送ってしまったメールを見て、つくづく馬鹿だと思う。 本当に馬鹿だ。 金持ちはヤクザと同じようなもんだ。 絡むとろくなことがない。 『会いたい。』 それだけ書いてある送信済みのメールを見て溜息を吐いた。 ここを出られるのは万々歳だ。 それに、歌手活動を再開できるのもこれといってない最高の条件だ。 できるのか定かじゃねぇけど、多分あいつはやると言ったらやる男なんだろう。 なんとも言えないあの不気味さがそう語っていた。 けど、再開してどうなる? 俺はまた売れることが出来るのか? また同じ道を辿るだけじゃないのか? あいつが売れるようにアシストしてくれるなら別だが、それは俺がしたいこととはまた違う気がした。 この生活からおさらばできる。 なんて幸せなことなんだろう。 そう思ったけど、あいつがいないのはなんだか俺には物足りなく感じてしまう。 無性に会いたくてたまらない男と会えずに保証されてない未来を選ぶのと、会いたい男と会いながらこのクソな生活を続ける。 俺は生来単細胞な男だ。 いっちょ前に傷ついて考えるくせに、深く考えずに行動する。脳と頭が一直線だから、好きなものは一番に食べたいタイプだ。 後の幸せよりも今の幸せ。 小さいものならともかく、でかいものはさらにその衝動はデカい。 もう、耐えられなくなったんだ。 体が、勝手に、求める。 あいつが、悪い。 あいつが俺を、洗脳したんだ。 ドアがノックされる音で顔を上げれば、こっちを覗くハルがいた。 その顔を見て体がぞわりと粟立った。 体中が歓喜しているのが分かった。 |