6 「餃子すきなんすか?」 「なんで?」 「え?だって頼んでたから……」 「まぁ、たまに食べたくなるよね。」 「ニンニク臭くなりますよ」 「一言余分なんだよ……」 はー、とため息を吐く早川さん。 忙しなく音が鳴る空間なのに、早川さんを見ていたら早川さんだけが立てる音に集中できてしまう。 水を持ったり、時計がテーブルに当たったり、服が擦れて音が出たり。 唇を見ていたら呼吸音さえ聞こえてきそうで目をそらした。 瞬間、??ーーっと大きな音が耳に飛び込んでくる。 目を逸らしたと言っても意識をそらせていたわけじゃなかった俺は、その音を敏感に感じ取ってしまって体を盛大に揺らした。 「メール?」 「うん、メール」 その音はどうやら早川さんの携帯からのようで、テーブルに置いていた携帯を持ち上げた早川さんは画面を操作し始める。 「誰から?仕事っすか?」 「それはないだろ、つか教える必要ある?」 早川さんが画面をタップした途端だった。 早川さんの目が大きく開かれる。 え、と思った瞬間早川さんは鞄を掴んだ。 「早川さん?」 「隼也」 そしておもむろに財布を開くと、無造作に一万円札をテーブルの上に置いた。 なに、なんだ、なんなんだ。 酷く焦った様子の早川さんは立ち上がると俺の脇まで来た。 「ごめん用事が、俺のも食べていいよ。あとこれでここの代金と帰りのタクシー。ここから乗っていいからお釣りはいらない」 「え、ちょ、早川さん……!待ってそんなに俺食べられないよ!」 「残していい」 「そんなの店の人に悪い!」 「どうしても外せない用事だ。」 「仕事はないって」 「仕事だ」 「嘘でしょ?」 早川さんは俺の制止も聞かずにそのまま店を出ていってしまった。 俺はテーブルに1人取り残された。 「……嘘だろ……」 そして間もなく運ばれてきたのは二人分のラーメンと餃子。 「こんなに、食べられるわけないじゃん……」 ラーメンは美味しそうに湯気を立ち上らせて、餃子も香ばしい焦げ目と共に芳ばしい匂いをさせている。 それなのに俺はちっとも美味しそうに見えなかった。 俺のポケットの中で震える携帯と、誰もいない目の前を見て唇を噛み締めた。 |