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あるはずが無い。
無いはずなんだ。
今から俺の目の前にいる早川さんが、あの人に会いに行くことなんて。

だって、俺はあの人にとっていい条件しか言ってない。
それを破ることによって生まれるメリットよりも、デメリットの方が大きい。
そう俺は画策して、破れないようにしたんだから。

あの人は好きであそこにいるんじゃない。
それに念願叶ってメジャーデビューしたっていうことを言ってたインタビュー記事も見た。
歌手に返り咲いて、あそこに店も辞められる。

そう、早川さんと縁を切るだけで。

こんなに良い話を無視する人がどこにいる?

それに、あんだけ脅しておいたんだ。
わざわざ地獄を選ぶなんてことしないだろう。

あの人が、早川さんを選べば地獄。
早川さんと縁を切れば天国。
そんなに馬鹿なこと、しないだろ?

ぎり、と唇を噛んだ。

早川さんの様子は俺が監視してるし、一応あの人が働いている方にも何か接触があれば連絡するように言ってある。
もし、俺が一緒にいない間に会われて気付けなかったらいけないから。

まぁ、そんなことないだろうけど。


もちろん、あの人が返り咲く用意も着々としてる。
俺は約束を守る主義だ。
あの人が借金を返しているのにあそこを出られないのは、ヤクザ関係とつながってるから。
だけどあんなもの金でどうにでもなる。
それに、音楽関係にも繋がりはあるわけだし一応あの人はそれなりの力がある。
問題すら揉み消せば活動できる。


「隼也?」

「あ、はい?」

「どうしたの?考え込んで」

「あー……いや。」


早川さんの憔悴具合から言って、たぶんあの人と会ってない。
それに、忙しくてそんな暇もなさそうだし。
連絡もないんだろう。

このままあの人を芸能界復帰させて離させてしまえばいい。

そしたら早川さんはまたこのことは忘れる。
普通の恋愛をして普通に結婚してくれる。
あの人とは元の関係に戻る。


「着いたよ。ここ。」

「あ、だいぶ歩いたっすねぇ」

「文句言ってる?」

「いやいやいや……」


そう、すべて俺のシナリオ通り。
絶対に、早川さんがここからあの人のところへ行くなんてことあるわけが無い。