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「遅くなったね、ごめんな。」


時間はもう夜の10時をとうに超えていた。
けれど、俺にとってはそんなの大した時間じゃない。
待っている時間もすごくドキドキして、あっという間だった。


「ぜんぜんっすよ!で、何食べに行くんすか?」


でも、あくまでそれは隠す。
露骨なのってあんま良くない気するし。
普通を装って、飯だけに興味あるような感じでもう早川さんなんてなんとも思ってない風を繕って……。


「んー……もう遅いからな。普通のとこはあんまり開いてないだろうな」

「……確かに飲食店とか、すぐ閉まりますもんね」


会社をふたりで出たら、出た瞬間に早川さんは首元に手をやってネクタイを緩めた。
そして、ふーーーと大きく息を吐き出す。
その仕草に思わず心臓がキュってなった。


「こんな時間から食うと太るしなぁ。飲み屋街なら開いてるかもしれないね。いこうか」

「お!早川さん行きつけ?」

「そんなに行かないから」

「まったまたぁ!」


歩いて少し、駅に着いたら電車に乗って早川さんの隣に座った。
もう仕事帰りのサラリーマンはほとんど帰宅し終わっていて、高校生とかサラリーマンがちらほらとだけ見える閑散とした車内だった。

沈黙が続く。
そんな中でそれを破ったのは意外にも早川さんだった。


「隼也は何が好き?」


思わず何かわからないけどドキッと心臓をはねさせる。


「なに、って?」

「っふ!食べ物」


すると何勘違いしたのと言いたげな早川さんが吹き出して、俺を見た。

俺は少し恥ずかしくなる。
別に勘違いなんてしてないけど。


「た、食べ物。」

「そ。」

「なんだろう食べ物……」

「無理しないでいいよ」

「無理なんてしてないです!」


電車に揺られるその感覚が気持ちよくて、思わず目を伏せた。
時々腕が触れ合ってしまうような距離感。
ほんのりと早川さんの体温が伝わって、全身に広がってく。
まるで、流れ込んでくるようで。

あぁもうこれでいい。
これが永遠に続けばいいのに。

俺の頭の中はそればっかで、好きな食べ物の具体的なのとか全然出てこなかった。