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とっくに忘れられた俺達は、いい思い出なんて残せてない。

そんなもんだ。

一発屋だった俺達は、大体の人に「あー、流行ったね」と言われるそれだけだ。

仕方ないとわかってるんだ。

十人十色、人にはそれぞれ好みがある。
万人受けするものなんてこの世にはない。
誰かが好きであれば、誰かは嫌い。
そんな世界なんだ。

分かってる。
分かっているけど。

万人受けしたときのような錯覚を覚えた俺は、それを理解出来ない。
周りを見れば俺を嫌う人たちや興味無い人たちばっかな現実を受け入れられない。
俺達を今現在好きな人を探すのが難しいこの現実は、生きづらい。

気にならなければいい。
気にしなければいい。

そんなことわかっているけど、体がこうやって反応してしまう。


「どうされましたか?……お客様?」

「あっ、あ……あぁ。」


肩にぽんぽんと衝撃を感じて、俺ははっとする。
俺の顔を覗き込むのはこの店の人らしかった。

いつの間にかしゃがみこんでいた俺は、顔を振って「大丈夫だ」と答える。


「気分が悪いなら救急車を……」

「いい、いらない……」

「そうですか……?手を貸しますよ」


差し出された手。
握って立ち上がれば、クラりと目の前が揺れた。


「……お、っと」

「すいません」

「大丈夫ですか?……やっぱり……」

「ただのたちくらみだ。これ、会計してくれ。」


しつこく聞いてくる店員に、俺はメルレックのCDを押し付ける。

結局、買ってしまった。