1 「おかえりなさいませ」 「うん、ただいま。」 そのまま家に帰った俺は、いつものように千尋にカバンを押し付けた。 頭の中がぐしゃぐしゃだった。 いざ、こんなふうに思いを伝えてみればすっきりすると思っていたのに、どんどんいろんな思いが混じりあって、頭の中は混乱していくばかりだった。 「隼也様?顔色が悪いようですが……どうかなされましたか?」 「なにもない。今日はご飯いらない、あそこに行く元気がない」 「そう……ですか。こちらに運ばせましょうか?」 「咀嚼する元気もないからいいよ、いらない。」 「……明日はきちんと食べてくださいね」 千尋もあまり多く言ってこない。 あらかた何があったのか俺の顔を見ればわかるのだろう。 もやもやする、胸の中に大きな何かができて、それがつっかえているかのような、そんな感覚。 分かっていることでも、どうしてこんなに面と向かって言われると悲しいと思うんだろう。 今までだって何度も、あの人が俺に気がないことははっきりとわかっていたのに。 勝ち目があると思ってしまったからだろうか。 悔しい。 あの男よりも俺の方が必ずあの人を幸せに出来ると思うのに。 |