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「おかえりなさいませ」

「うん、ただいま。」


そのまま家に帰った俺は、いつものように千尋にカバンを押し付けた。
頭の中がぐしゃぐしゃだった。

いざ、こんなふうに思いを伝えてみればすっきりすると思っていたのに、どんどんいろんな思いが混じりあって、頭の中は混乱していくばかりだった。


「隼也様?顔色が悪いようですが……どうかなされましたか?」

「なにもない。今日はご飯いらない、あそこに行く元気がない」

「そう……ですか。こちらに運ばせましょうか?」

「咀嚼する元気もないからいいよ、いらない。」

「……明日はきちんと食べてくださいね」



千尋もあまり多く言ってこない。
あらかた何があったのか俺の顔を見ればわかるのだろう。

もやもやする、胸の中に大きな何かができて、それがつっかえているかのような、そんな感覚。

分かっていることでも、どうしてこんなに面と向かって言われると悲しいと思うんだろう。
今までだって何度も、あの人が俺に気がないことははっきりとわかっていたのに。

勝ち目があると思ってしまったからだろうか。


悔しい。


あの男よりも俺の方が必ずあの人を幸せに出来ると思うのに。