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「好きな人の恋も応援できないのかい。君は」


殴られたんだろうか。
じんじんとする左頬に手を当てたら、早川さんが眉を寄せて俺を見ていた。


「相手によるって言ってるんです俺は。」

「どんな相手に恋しようと勝手だろ。それが俺に似合ってる似合ってないを判断するのはただのエゴだよ。」

「……だって嫌だ。」

「なに?」

「嫌なんです!!好きな人が幸せになれないのは!!なんであの人なんですか!!もっとあなたならいっぱいいるじゃないですか!!」

「幸せになれる恋をするのも幸せになれない恋をするのも俺の自由でしょ」

「それなら俺の気持ちはどうなるんですか……。」

「……」

「俺初めて好きになったんです。ここまで一人のことを考えるのは初めてだったんです。愛おしいって思うことを知って、誰かのために何かをすることを知って、あなたに幸せになって欲しいって思ったのに。俺はこの気持ちを大事にしたい、なかったことになんかしたくない。」


知らなかった。
何も知らなかったし、何も興味を持てなかった退屈だった世界に色を塗ってくれたのは早川さんだった。

好きな人のために考えて、好きな人のことを考えて。

初めて自分が少しだけ人間らしく生きている気がした。

家族には冷たくあしらわれて、交友関係も俺をブランド扱いする人と金目当てに一晩限り付き合ってくれる見知らぬ人。

なんのために生きているのか、楽しみなんてあるのかわからないそんな世界で、楽しみをくれた人。


「そんなこと、言われても。おれは……隼也のことを好きになんかならないよ。」


悔しくて、もう、ぐしゃぐしゃだ。