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やっとのことで吐き出した言葉は震えていた。

胸が今まで体験したことない程に強く締め付けられて、苦しい。
鼻の奥がツンと痛んで、やばいと思って慌てて目を見開いた。


「知ってるんなら、いいでしょ。そういうことなんだよ。」

「……だからダメなんだ」

「ん?」


部屋を出ようとする早川さんの腕を掴んで、俺は引き寄せた。

少しだけ驚いた早川さんの声が聞こえて、早川さんの匂いがダイレクトに匂う。
久々に嗅ぐこの匂いに、心臓がどくんっと鳴った。


「どうして、あの人なんですか。」

「どうしてって……言われても……」

「あの人じゃなかったら俺は応援できたのに!!」

「どういうこと?」

「あの人じゃなかったら、あの人じゃなかったら……っ、どうして体売ってるような人なんですか。なんであの人なんですか?なんで、なんで男なんですか……!」


俺は、ぐいと腕を引き寄せたまま、そのまま叫ぶように続ける。
頭に浮かんだ言葉をポンポンと吐き出す。
冷静な考えなんてできなくなっていた。


「普通の女の人なら俺、こんな事言うつもりもなかった。素直に諦めようと思った!それなのに風俗の人だし、挙句の果てには男の人だし、それもあなたの好きだったバンドのヴォーカリスト?それ絶対好きじゃないよ、詳しくはわからないけど……っ、絶対同情だ!!」

「同情?」

「好きなバンドのメンバーで、あなたのことだからいい話聞かされて可愛そうだと思ったんでしょ!!それで、いろいろ会ってセックスしてるうちにあの男に言いくるめられたんだ。落とされたんだ。それは本当の好きじゃない!」


息が荒くなっている。
俺は、はぁはぁと肩で息をしながら早川さんを見上げた。


「あの最低な男に金をむしり取られて、挙句の果てに使えないと思ったらそれきりでもう相手してもらえなくなるんだ。」


きっとそうだ。
あなたはあの男に騙されてるんだ。
だから、好きだなんて思って。

そう思っていたら、不意に破裂音とともに左頬が熱くなった。