1 「……った!!」 どこかの部屋に連れ込まれたと思った瞬間、手首を勢いよく離された。 俺は手首をわざとらしく摩る。 「鬱血してるっすよ。ほら、みて、赤くなってる」 「赤くなってるだけでしょ」 手首を見てみれば、そこは早川さんの手形がついていた。 早川さんは入口に鍵をかけると、ガシガシと頭を掻いて俺を見た。 「はぁ……話の続きは?一体何がしたいの。聞いてあげるよ、でも手短に。俺は仕事が残ってるんだよ。」 コツコツと指先で腕にしている腕時計をつついた早川さん。 困った、というか、めんどくさいことになった、という顔をしている。 「俺の隣の席に座っていたの?でもあそこ個室だよね?どうしてわかったの」 「それは早川さんの声が聞こえて。」 「はぁ、そんな大きな声で話してたかなぁ……」 「俺には聞こえました。」 「そう。はー……」 「あの人ですよね?早川さんの好きな人」 早川さんが目頭を抑えてため息をついてる。 俺は、それから目を離しながら早川さんに問いかけた。 聞かなくたって、分かってるんだけど。 「あの人だったら何?君には関係ない話だよね?」 「……関係、あるんです。」 肯定でもないけど否定でもない。 分かっていたけれど、いざこんなふうに言われるとどうも心がかき乱される。 息が苦しくなって、内蔵がせり上がってくるような錯覚に襲われる。 耳元で太鼓がうち鳴らされるように、心拍が聞こえる。 |