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「……った!!」


どこかの部屋に連れ込まれたと思った瞬間、手首を勢いよく離された。
俺は手首をわざとらしく摩る。


「鬱血してるっすよ。ほら、みて、赤くなってる」

「赤くなってるだけでしょ」


手首を見てみれば、そこは早川さんの手形がついていた。
早川さんは入口に鍵をかけると、ガシガシと頭を掻いて俺を見た。


「はぁ……話の続きは?一体何がしたいの。聞いてあげるよ、でも手短に。俺は仕事が残ってるんだよ。」


コツコツと指先で腕にしている腕時計をつついた早川さん。
困った、というか、めんどくさいことになった、という顔をしている。


「俺の隣の席に座っていたの?でもあそこ個室だよね?どうしてわかったの」

「それは早川さんの声が聞こえて。」

「はぁ、そんな大きな声で話してたかなぁ……」

「俺には聞こえました。」

「そう。はー……」

「あの人ですよね?早川さんの好きな人」


早川さんが目頭を抑えてため息をついてる。
俺は、それから目を離しながら早川さんに問いかけた。
聞かなくたって、分かってるんだけど。


「あの人だったら何?君には関係ない話だよね?」

「……関係、あるんです。」


肯定でもないけど否定でもない。
分かっていたけれど、いざこんなふうに言われるとどうも心がかき乱される。

息が苦しくなって、内蔵がせり上がってくるような錯覚に襲われる。

耳元で太鼓がうち鳴らされるように、心拍が聞こえる。