1




「……隼也様?」


千尋が俺の肩に手を置いて、俺はやっと自分がどこにいたのかを思い出した。

しばらく放心状態で俺は格子の向こうを見つめていたらしい。


「千尋、」

「どうされました……」

「……」


すべての事情を知っている千尋。
俺が千尋に何も言えずにいると、千尋はそっと俺と一緒に格子の奥を見つめた。


「お知り合い、ですか?」


多分、早川さんは気づいているのだろう。
けれどもう一人の人間がわからない。
千尋は怪訝そうな顔をして、そっちから目を話すと俺の顔を見た。


「知り合いじゃ、無い。でも知ってる」

「そうですか……」

「モト芸能人だよ、あの人」

「ゲイノウジン?どうしてそんな人と……遥幸様が」

「聞こえてしまうかもしれないから、早く食べて出よう」


ショックなことだったけど、何故かすごく冷静だった俺は、千尋と席を変わるとまたラーメンに手をつけた。
声は小さく会話していたけれど、聞こえてしまうかもしれない。

それ以降俺は、早川さんが帰るまで二人の会話を聞いて、それから店を出た。